コラム

砲撃は金正恩の「デビュー戦」か

2010年11月24日(水)15時45分

 北朝鮮に関しては、確かにこれまでも数多くの警告がなされてきた。そんな中、北朝鮮が行った23日の韓国・延坪(ヨンビョン)島への砲撃は、金正日(キム・ジョンイル)総書記の後継に確定した三男、正恩(ジョンウン)が命令を下したか、あるいは少なくともこの後継体制作りが関連している可能性があると指摘する専門家もいるようだ。オーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルド紙はこう報道している。




 北朝鮮は韓国領土に対する砲撃によって、後継者に確定した26歳の金正恩の指導者としての足場を固めようとしている。今回の大規模な攻撃を受けて韓国は数十発の砲弾で応戦し、F-16戦闘爆撃機を緊急出動させた。

 韓国軍兵士2人が死亡し、少なくとも12人が重軽傷を負った。北朝鮮側の砲弾によって延坪島の住民が負傷したとの情報や住宅が炎上したとの報道もある。

 北朝鮮情勢に詳しい張璉瑰(チャン・リエンコイ)中国共産党中央党校教授によると、金正恩は北朝鮮軍を動員して自らの権力を強化するため、意図的に状況を不安定化させているという。

 北朝鮮は、金正日の後継者、正恩の名の下に国家を結集させる目的でこの瀬戸際戦術を展開していると、中国の北朝鮮専門家たちは見ている。


 さらに、タイム誌でビル・パウエル記者はこう報じている。




 ソウルの専門家たちによれば、北朝鮮がウラン濃縮施設を公開したことと、23日の砲撃事件とを結びつけているのは、北朝鮮で進行中の後継劇だとする説が有力だという。どちらの事件も、金正日政権が最重要に掲げてきた要素──「軍事第一」の原則──を誇示するものだ。金によれば、それは「軍事を最優先事項に置く」ことを意味し、北朝鮮軍を「革命の支柱とする」ことを指す。

 ほんの6週間前、北朝鮮政府は次の指導者として正恩を後継とすることを事実上認めた。北朝鮮が核兵器製造能力を高め続けていること(米情報当局によれば北朝鮮は既に8〜12の核爆弾を所有しているという)、米オバマ政権で北朝鮮政策を担当するスティーブン・ボズワース特別代表が近隣の韓国、日本、中国を訪問する時期を狙って無謀な軍事攻撃を仕掛けたことなどから、ある1つの事実が見えてくる。正恩が政権を引き継いだ場合、北朝鮮は何一つ変わらない、ということだ。

「金正恩は目下、よりタカ派の軍関係者から強い影響を受けている」と、世宗研究所の北朝鮮専門家、張成昌(チャン・ソンチャン)は言う。「正恩の権力の基盤は軍にあり、その北朝鮮軍はかつてなく強大化している」


 すべては憶測に過ぎないが、金正恩が朝鮮労働党の中央軍事委員会で担う役割を考えればあり得ない話ではない。やはり正恩が関わっていたとされ、大惨事に終わった昨年のデノミ(通貨単位の切り下げ)の一件も考え合わせると、金一族の3代目が率いる北朝鮮の未来にもさっそく暗雲が立ち込めだしたようだ。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年11月23日(火)12時00分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 24/11/2010. ©2010 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story