コラム

サルコジ、ロマ弾圧の皮算用

2010年08月19日(木)17時41分

 フランスのニコラ・サルコジ大統領は、移動型民族ジプシーを弾圧して世論ウケをねらうというヨーロッパの伝統的政治手法をフル活用しているようだ。8月18日付けのウォールストリート・ジャーナルは次のように伝える。


 過去3週間、51カ所の不法キャンプから強制排除された東欧出身のロマを含むジプシーたちは、フランス国籍を持つ者も含めて8月19日から強制送還される予定だ。キャンプから追い出された人々のうち、不法滞在の約700人は、中東欧の母国に帰されるという。

 7月にはフランス中部のサンテニャンで、検問で止まらなかった22歳のジプシーが射殺された。怒ったジプシーたちは斧や鉄棒で武装して木を倒し信号を壊し、車に火を放ってパン屋や警察署に押し入った。

 サルコジが、ジプシーの不法キャンプ撤去を決めたのは2週間後の7月28日だ。移民が警官を殺そうとして有罪になった場合は、フランス国籍を剥奪することも提案している。与党の国民運動連合(UMP)もサルコジとは別途、非行に走った子供の両親を最長2年の禁固刑にすることを提案した。


 実際、こんなことは日常茶飯事だ。フランス政府は定期的にキャンプを撤去しており、昨年だけで約1万人のロマをルーマニアやブルガリアに送り返している。だが、EU(欧州連合)市民であるロマは、ビザなしで自由にフランスに入国できる(永住はできない)し、フランスの差別は東欧で受ける差別よりはずっとましなため、少しするとまた舞い戻ってくる。しかし今回サルコジは、強制送還をより大きな「法と秩序」回復キャンペーンの目玉に据えた。

 サルコジの支持率は、景気低迷と不正資金疑惑のせいで30%台の前半を低迷している。対移民強硬策は功を奏しているようだ。フランスの有権者の79%はキャンプの解体を支持し、サルコジの支持率も今月に入って2ポイント上昇した。かくして、移民が増えては弾圧するサイクルはどこまでも続く。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年08月18日(火)14時56分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 18/8/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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