コラム

オバマも呆れるEUの「トップレス病」

2010年02月03日(水)17時03分

 米政権は1月31日、5月にスペイン・マドリードで行われる米・欧州連合(EU)年次首脳会議にバラク・オバマ米大統領が出席しないと発表した。これを機に、またもや「オバマはヨーロッパを無視している」との声が高まりそうだ。

 今回の決定は理にかなったものだ。オバマは就任1年目に10回の外遊を行い、21カ国を訪問した。ヨーロッパもすでに6回訪れており、今秋にはポルトガルで開かれるNATO(北大西洋条約機構)サミットに出席する予定だ。

とはいえ、今回の決定はタイミングが悪かった。米・EU年次首脳会議の開催地スペインのホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ首相は4日に訪米する予定で、さぞかし決まりの悪い思いでいるに違いない。

■新設のEU大統領はリーダー失格?

 しかしウォールストリート・ジャーナル紙が報じているように、オバマの欠席はある問題を浮き彫りにした。リスボン条約が批准され、前ベルギー首相のヘルマン・ヴァンロンプイがEU大統領(欧州理事会常任議長)に就任した今もなお、アメリカとの対話の窓口が誰なのか米政権が測りかねていることだ。


 米政府筋によれば、米・EU年次首脳会議の仕切り役が現EU議長国のスペインなのか、EU本部のあるベルギーなのか明らかでないため、混乱が広がっているという。

 米国務省のある高官は、12月にリスボン条約が発効して以来、EUの構造に変化が生じていると指摘した。今回の年次首脳会議は、EU大統領のポストが正式に確立され、EU本部がヨーロッパを代表する窓口として認められてから初のサミットになる。そこで米国務省は、今回の年次首脳会議のまとめ役がEU議長国のスペインのサパテロ首相なのか、ヴァンロンプイEU大統領とジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長なのか、EU側に問い合わせていたという。

 アメリカが同会議への参加に二の足を踏んだのはこうした混乱が原因だと、別の高官は語った。


ニューヨーク・タイムズ紙は加えてこう報じた


 ヨーロッパの政府関係者は2日、ヴァンロンプイEU大統領とキャサリン・アシュトンEU外相が職務に就くにあたっての業務移行やスタッフ確保に苦戦していることを認めた。その間に、EU議長国のスペインがEUの議題やサミットの計画などで主導権を握り始めた。


 元米国務長官のヘンリー・キッシンジャーがかつて問いかけた有名な言葉がある。「ヨーロッパと話したいとき、誰に電話すればいいのだ?」。いまだに、この問いへの答えは見つかっていない。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年02月02日(火)21時34分更新]


Reprinted with permission from FP Passport, 03/02/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story