コラム

ウクライナ奪還へ、ロシアの早業

2010年01月20日(水)17時30分

 ロシア政府は、5カ月前から派遣を凍結していた駐ウクライナ大使を首都キエフに送ることに決めた。1月17日投票のウクライナ大統領選で、現職のビクトル・ユーシェンコ大統領が屈辱的大敗を喫してからわずか2日後の早業だ。

 2004年の大統領選で火がついた民主化運動「オレンジ革命」でユーシェンコ政権が誕生して以来、ロシアの影響力を排して西側との関係を強化するという親欧米派のユーシェンコは、ずっとクレムリンの目の上のたんこぶだった。ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領は、駐ウクライナ大使として着任するミハイル・ズラボフにこう言った。「(2月7日に行われる)決選投票のあかつきには、有能で互いに協力し合えるウクライナの新大統領と建設的、友好的、かつ包括的な関係を築けることを期待する」

 だが、ウクライナにロシア寄りの政権ができてもさほど心配には及ばないと、米シンクタンク、アメリカ進歩センターのサミュエル・チャラプは分析する

■ヤヌコビッチも犬ではない


 決選投票に残ったビクトル・ヤヌコビッチ前首相とユリア・ティモシェンコ首相はいずれも、ロシアとの関係改善を優先課題にするだろう。だがそれは主に、対ロ関係が断絶した現在の状況は持続不可能だからで、ロシアの支配に屈服するためではない。(親ロシア派と言われる)ヤヌコビッチも決してロシアの犬ではなく、06〜07年に短期間だが首相を務めた時も、ロシアの「欲しい物リスト」に応じるようなことはほとんどしなかった。ヤヌコビッチを支持する経済団体も、最大の輸出市場である西側との関係を損なったり、ロシアの新興財閥にウクライナの利権を渡すようなまねは許さないだろう。

 つまり、巷で言われていることとは違い、この大統領選でウクライナの地政学的な位置づけが大きく変わることはない。キエフ政権のトップはもはや欧米志向の理想主義者ではなくなるが、新大統領が露骨な反ロ姿勢を引っ込めて、現実的な外交を行ってくれるのであればかえって好都合かもしれない。


 ウクライナが統治機能を回復すればその恩恵は、ロシアとの関係改善で欧米が被る一時的な損失よりも最終的には大きなものになるのではないか、とチャラプは言う。

 悲観的な見方もある。米ピーターソン国際経済研究所の上級研究員アンダース・アスランドは、ロシアがウクライナに介入する潜在的可能性を危惧する

 関連の記事として、興味が尽きないティモシェンコの人柄に迫ったプロフィールを、イタリアのジャーナリスト、フェデリコ・フビニが書いている。また、選挙戦を有利にするためにティモシェンコ陣営がいかに新型インフルエンザの恐怖を煽ったかについてのリポートも面白い。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年01月19日(火)13時51分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 19/1/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、与那国島ミサイル計画に警告 「台湾で一線越え

ビジネス

JPモルガン、カナリーワーフに巨大な英本社ビル新設

ワールド

特別リポート:トランプ氏の「報復」、少なくとも47

ビジネス

欧州委、SHEINへの圧力を強化 パリ裁判所の審理
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story