コラム

地政学的には退屈なW杯組み合わせ

2009年12月07日(月)17時00分


運命の激突 地政学的に敵対する国同士の対戦が見られるのもW杯の醍醐味(写真は06年ドイツW杯準決勝)  Jose Manuel Ribeiro-Reuters


 私のような「国際派」のアメリカ人が白状すべきことではないのだが、実を言うと私はサッカー観戦がそれほど好きではない。スポーツはやっぱり、(アメリカン・フットボールやバスケットボールのように)展開が速くて次々と得点が決まり、テレビCMや運ばれてくるビールでたびたび中断されるくらいがいい。

 だが、サッカーでもワールドカップ(W杯)となると話は別だ。地政学上では憎きライバル同士の国が、殺し合うことも傷つけ合うこともなく(よほどのことがなければ)、公の場で火花を散らすのを見ることができるからだ。

 国連財団の専属ブロガー、マーク・レオン・ゴールドバーグが言うように、12月4日に行われたW杯南アフリカ大会の組み合わせ抽選会では、W杯の見どころを探る最初のチャンスが訪れた。この組み合わせを見るかぎり、国際的なバトルが期待できるゲームはあまりなさそうだ。

pass041209a.jpg

 1次リーグでは旧宗主国と旧植民地が対戦するゲームがある、とゴールドバーグは指摘する(ブラジル対ポルトガル、アメリカ対イギリス、スペイン対チリとスペイン対ホンジュラス)。だがこの国々の植民地支配はすべて何世紀も前の話なので、それほど険悪な関係にはない。

 出場国の中に北朝鮮が入っているのは興味深いが、決勝トーナメントまで勝ち進まないと韓国や日本、アメリカと対戦することはないだろう。

 決勝トーナメント1回戦では、ホンジュラス対ブラジル戦が見られる可能性もある。今年6月にクーデターで国外追放されたホンジュラスのホセ・マヌエル・セラヤ大統領を保護しているのが、ほかならぬブラジルの大使館だ。情勢次第で面白い試合になるだろう。旧ユーゴスラビアのセルビアとスロベニアの対決も見物だ。

 だがこれらの組み合わせを見ても、外交専門誌フォーリン・ポリシーのブロガーであるハーバード大学ケネディ行政大学院のスティーブン・ウォルト教授(国際関係論)が挙げた、「世界を揺るがした世紀のスポーツ対戦」リストに加えられることはなさそうだ。ベネズエラ対コロンビアや、ロシア対ポーランドの試合が見たいというのは、私たちのような国際問題を扱うブロガーの高望みに過ぎないのだろうか。

 W杯の展開でもっと気になることがある(サッカーにそれほど入れ込んでいない人たちにとっては、だが)。南アフリカでのW杯開催を危ぶんだ人々に、彼らの考えが間違っていたと証明できるだろうか。南アフリカの欠陥をさらすのではなく、目覚しい成果を披露する場にすることができるのか。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2009年12月04日(金)18時01分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 04/12/2009. ©2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国製造業PMI、4月は約2年半ぶりの低水準 米関

ワールド

サウジ第1四半期GDPは前年比2.7%増、非石油部

ビジネス

カタールエナジー、LNG長期契約で日本企業と交渉

ビジネス

アップル、関税で4─6月に9億ドルコスト増 自社株
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story