最新記事

北朝鮮

北朝鮮警備隊が中国人に無差別銃撃...国境地帯で死者続出

2021年4月30日(金)18時20分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載
北朝鮮の兵士

Danish Siddiqui-REUTERS

<目的は新型コロナの流入を防ぐためだが、中国人の犠牲者が増えていることで不満が高まっているという>

北朝鮮の社会安全省(警察庁)は昨年8月、国境地帯、緩衝地帯に無許可で近づく者には無条件で銃撃すると布告を下した。これは、新型コロナウイルスの国内流入防止に神経を尖らせている金正恩総書記の指示に基づくものだ。

脱北や密輸目的で国境に近づいた人はもちろんのこと、知らずに近づいてしまった人まで無慈悲に撃ち殺している。

(参考記事:北朝鮮兵は弾倉が空になるまで撃ち続けた...射殺された「ある恋人たち」の悲劇

そんな「コロナ・パラノイア」とも言うべき北朝鮮当局の対応によって、中国人までが犠牲になる事態が起きてしまった。

デイリーNKの対北朝鮮情報筋によると、事件が起きたのは先月末のこと。中国・吉林省の長白朝鮮族自治県の十二道溝村と十三道溝村の中間地点から、国境を流れる鴨緑江を越えて北朝鮮に入ろうとした中国人が、北朝鮮の国境警備隊に射殺された。

(参考記事:「気絶、失禁する人が続出」金正恩、軍人虐殺の生々しい場面

密輸目的で川を渡ろうとしていたこの中国人を発見した国境警備隊員は、空に向けて威嚇射撃を行った。しかし、戻ろうとしなかったため銃撃。頭部と腕を撃たれ死亡したとのことだ。

同様の事件は昨年5月にも起きていた。同じ長白朝鮮族自治県から川に渡って北朝鮮の恵山(ヘサン)に入ろうとした50代の中国人男性が、北朝鮮の国境警備隊に撃ち殺されている。

しかし、中国当局は誰彼問わず銃撃を行うという北朝鮮の方針に反発。両国間の交渉の結果、中国人に対して無差別、無分別に銃撃して人的被害が発生した場合、北朝鮮から輸入する商品の関税を3倍にし、北朝鮮側が被害者に賠償金を支払うことで、昨年9月に合意している。

今回は、事前の威嚇射撃があったことから、「無差別、無分別な銃撃」には当たらないかもしれないが、中国側の反応について情報筋は触れていない。

この地域の中国人の間では「中国は北朝鮮人が越境してきても銃撃しないのに、北朝鮮は無条件で人を撃ち殺そうとする」と、北朝鮮への反感が高まっていると情報筋は伝えた。

一方、国境地帯から遠く離れた、韓国に程近い黄海南道(ファンヘナムド)の海州(ヘジュ)沖で違法操業を行なっていた中国漁船に対して、北朝鮮の警備艇が実弾射撃を行い、それを逃れようとした漁船が岩礁にぶつかり沈没する事故が起きている。

船には7人が乗り込んでいたが、北朝鮮は救出作業を一切行わず、結局乗組員全員が死亡したとのことだ。

北朝鮮は非常防疫指針で、陸上、海上、空中を問わず、すべての空間を封鎖し、外部の人間との接触を厳しく禁じていることから、事故を目の当たりにした警備艇の乗組員も、処罰を恐れて手出ししなかったものと思われる。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

VW傘下のシュコダ、インドで単独でもEV生産に投資

ワールド

停戦発効後のガザにイスラエルが空爆、少なくとも15

ビジネス

日経平均は大幅続伸で寄り付く、米株高や為替相場の落

ワールド

有志国、停戦後のウクライナ支援へ準備強化 20日に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自然の中を90分歩くだけで「うつ」が減少...おススメは朝、五感を刺激する「ウォーキング・セラピー」とは?
  • 2
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 3
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴された陸上選手「私の苦痛にも配慮すべき」
  • 4
    『シンシン/SING SING』ニューズウィーク日本版独占…
  • 5
    エジプト最古のピラミッド建設に「エレベーター」が…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 8
    奈良国立博物館 特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」…
  • 9
    鈍器で殺され、バラバラに解体され、一部を食べられ…
  • 10
    劣化ウランの有効活用にも...世界初「ウラン蓄電池」…
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 4
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 8
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 9
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 10
    中国中部で5000年前の「初期の君主」の墓を発見...先…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中