コラム

歌舞伎町案内人はあの遊就館をどう観たか

2014年02月17日(月)09時00分

今週のコラムニスト:李小牧

〔2月11日号掲載〕

 このコラムで先月、中国の防空識別圏設定のお陰でぎくしゃくする日中関係を打開するため、安倍首相に「チャンスがあれば開き直って堂々と握手するずうずうしさを持つべきだ」と説いた。

 ただ、握手どころか首相として7年ぶりの靖国神社参拝という「ビンタ」を中国に浴びせたところを見ると、せっかくの「歌舞伎町大学」教授の名講義も残念ながら首相の耳には届かなかったらしい。

「軍国主義の心臓部」を訪れた安倍首相に「中国人の中の中国人」李小牧は怒り心頭──日本人の皆さんはそう思っているかもしれない。でも、私は今回の事態を必ずしも否定的には考えていない。

 昨年秋、日本のある財団の招きで来日した中国人ジャーナリストと東京や関西を見学した。京都や奈良では金閣寺などを見たのだが、彼にとっても私にとっても、何より印象深かったのは靖国神社の遊就館を見学したことだった。

 今年で来日26年目になるが、これまで靖国神社に行ったことはあっても、遊就館には足を踏み入れたことはなかった。日中戦争を「支那事変」、太平洋戦争を「大東亜戦争」と呼び、戦争に対する反省のない施設と聞けば、中国人はどうしても行くのをためらう。

 ただ今回初めてその展示内容を見て、素直に驚かされた。まず当時の日本の産業力と科学力だ。航空母艦を何隻も持ち、世界で最も優秀な戦闘機ゼロ戦を作り上げる。当時の中国ではまず実現できなった水準だ。これでは祖国が日本に侵略されたのもしかたない──私と、同行した中国人ジャーナリストの意見は一致した。

 自分たちの戦争をひたすら肯定するのは、実は中国人の感覚からいえばそんなに違和感はない。北京の西にある人民革命軍事博物館はひたすら人民解放軍の戦いを正統化した展示内容だ。

 天安門広場にある毛主席記念堂には毛沢東の遺体が安置されているが、大勢が死んだ大躍進運動や文化大革命への反省はまったくない。遊就館では孫文や毛沢東、蒋介石についてもきちんと紹介されているし、そもそもその名前は中国の古典『荀子』に由来している。

■『永遠の0』への意外な感想

 先日、私は話題の映画『永遠の0』を見に行った。人民日報系のタブロイド紙環球時報が「日本社会の右傾化の証拠」と映画を鼻息荒く批判していたが、とてもそうは思えなかった。この映画のテーマは「命をむだにしてはいけない」だ。決して戦争や神風特攻隊を賛美する内容ではない。実際、2時間半近い上映時間の間に私は3回も泣いた。

 戦争が終わって70年になろうとしているのに、いまだに何でもかんでも戦争にからめて日本を批判するのは、明らかに中国が間違っている。そもそも中国政府のやることは矛盾だらけだ。尖閣諸島だってもともと琉球領だと認めていたのに突然自国領と言い始めたし、小泉首相の靖国参拝を批判した時も、彼が以前に北京の抗日戦争記念館を訪問していたことは触れもしなかった。

 最近、被告に無期懲役の判決が下りた毒ギョーザ事件だって中国政府は当初、原因が自国内にあることを否定していた。昨年、中国を訪れた日本人旅行者の数が2割減ったとニュースになっていたが、私に言わせれば少ないぐらいだ。日本は「政冷経冷」を恐れるべきでない。遊就館や『永遠の0』を見たからといって、「戦争をやりたい!」と思う日本人がいるはずはない。私に言わせれば、両方とも「平和の教科書」だ。

 私はこれまでこのコラムでかなり自由に発言してきたが、中国に帰っても公安当局に捕まることはなかった。ただ、さすがにここまで書くと限界かもしれない。

 もしそうなったら......日本に帰化して待望の選挙権を手に入れ、「湖南性事郎」として新宿区議選挙に立候補することを事前にお約束しておく(笑)。

プロフィール

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・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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