コラム

「お国柄」では済まされないいじめ問題の根の深さ

2012年10月02日(火)09時00分

今週のコラムニスト:レジス・アルノー

〔9月26日号掲載〕

 日本に来てから学校でのいじめの話をたびたび耳にしてきた。毎年のように悲劇が起きる。騒ぎは数週間で収まるが、忘れた頃に新たな悲劇が起きる。

 いじめは日本だけに限らない。いじめが原因でイギリスでは毎年推計15~25人の子供が自殺、アメリカでは毎日推計16万人の子供が登校を拒否する。フランスでは、教育省の調査によれば生徒の10%(20万人)がいじめを経験している。

 いじめは特定の文化に固有の社会問題ではなく、むしろ人間のごく基本的な性質と関連している。集団をつくる人間は仲間の1人をいじめて結束を強めようとする傾向がある。フランスの精神科医ニコル・カトリーヌによれば、「まだアイデンティティーが確立していない10代の若者は集団への帰属意識が強い。集団から抜けたり集団のルールに従わない人間はスケープゴートにされる」。

 日本では集団志向が非常に強いからフランス以上にいじめが大きな問題になるのだろう、と私は思っていた。言い尽くされたことだが、日本では昔から「出るくいは打たれる」といわれる。誰かをのけ者にしたり悪者にするのは集団をつくる人間のなので、いじめを完全になくすのは難しいと、精神科医の和田秀樹は言う。教師がいじめに加わったり、見て見ぬふりをしたり、片棒を担ぐ場合もある。

 フランスではそんなことは起きないと思っていた。フランス文化は常に多様性を強調するからだ。ところがフランスの教師もいじめを黙認することがあるらしい。個性を重視するアメリカでもいじめは大きな社会問題になっている。

 フランスは平等主義の国だから生徒は尊重し合うはずだと私は考えていた。先輩と後輩、教師と生徒などの上下関係はフランスでは非常に弱い。フランス革命の際は、階級制度の象徴である国王を処刑することを多数決で決めた。フランスでは経済的平等より社会的平等を重視するから、女性と男性も、生徒と教師も、上司と部下も社会的には対等だ、と。

■いじめはれっきとした犯罪だ

 しかし実際は、フランスでもいじめはもっぱら10代の若者の間で起きる。ただし日本と違い、いじめられるのは「人と違う」子供ではなく成績のいい子供だ。平等を愛するフランス人は「優等生」が許せない。つい最近までエリート校でさえ「新入生いじめ」が恒例化していた。

 日本のいじめにも特色がある。例えば、日本ではいじめの一部が「娯楽」になっている。テレビ番組で出演者が侮辱され、冷たい水に投げ込まれ、生きたロブスターにくすぐられる。先日は、お笑いタレントのスギちゃんがバラエティー番組の収録中に10メートルの高さからプールに飛び込み、胸椎破裂骨折の重傷を負った。芸人の体当たり企画と言えば聞こえはいいが、10メートルの高さから飛び込ませて楽しむことと、同級生をビルの屋上から飛び降りさせることの区別が、子供たちにつくのだろうか。

 フランスがいじめ対策に本腰を入れ始めたのは2010年。教育省がメディアや学校や医師の協力を得てウェブサイトを開設し、いじめに関するデータが自由に入手できるようになった。日本との大きな違いはいじめを犯罪と見なしている点で、新入生いじめには98年から法律で罰金7500ユーロ(約75万円)、禁錮6カ月が科される。

 日本では大津での悲劇を受けて先月、文部科学省が「子ども安全対策支援室」を設置したが、まだ十分とは思えない。いじめで自殺した子供の遺族らでつくる川崎市のNPO「ジェントルハートプロジェクト」は、いじめ自殺の実態のアンケート結果を遺族に公表することを拒む文科省の態度を批判する。集団志向と上下関係の塊である学校という場所の隠蔽体質に文科省が加わっているようでは、いじめは当分なくならないだろう。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

MAGAZINE

特集:顔認証の最前線

2019-9・17号(9/10発売)

世界をさらに便利にする夢の技術か、独裁者のツールか── 新テクノロジー「顔認証」が秘めたリスクとメリットとは

※次号は9/18(水)発売となります。

人気ランキング

  • 1

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(2019年9月)

  • 2

    外国人への憎悪の炎が、南アフリカを焼き尽くす

  • 3

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 4

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 5

    アメリカ人労働者を搾取する中国人経営者

  • 6

    【韓国政治データ】次期大統領としての好感度ランキ…

  • 7

    2050年人類滅亡!? 豪シンクタンクの衝撃的な未来…

  • 8

    香港デモはリーダー不在、雨傘革命の彼らも影響力は…

  • 9

    「Be Careful to Passage Trains」日本の駅で見つけ…

  • 10

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 1

    タブーを超えて調査......英国での「極端な近親交配」の実態が明らかに

  • 2

    消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

  • 3

    「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」への反響を受け、もう一つカラクリを解き明かす

  • 4

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 5

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(201…

  • 6

    思い出として死者のタトゥーを残しませんか

  • 7

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 8

    性行為を拒絶すると立ち退きも、家主ら告発

  • 9

    韓国男子、性との遭遇 日本のAVから性教育での仏「過…

  • 10

    英国でビーガンが急増、しかし関係者からも衝撃的な…

  • 1

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 2

    日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう

  • 3

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 4

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 5

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 6

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで…

  • 7

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 8

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 9

    韓国で脱北者母子が餓死、文在寅政権に厳しい批判が

  • 10

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!