コラム

「共通の友人」を奪い合うネット企業の仁義なき戦い

2012年12月15日(土)09時28分

 最近は、インターネットやテクノロジー企業間の「離婚」話が多い。

 たとえばインスタグラムとツイッター。写真共有サービスのインスタグラムは、ユーザーが撮った写真を、これまでツイッター上でもスムーズに公開するための手順を提供してきた。ところが先頃、インスタグラムは写真をうまくトリミングしてツイッター上に表示する機能を停止してしまったため、ツイッターでは満足な写真をシェアすることができなくなってしまった。

 ずっとインスタグラムを使ってきたユーザーは、ここへ来て、これまで撮り貯めてきた写真を捨てて別の写真共有サービスに乗り換えるか、ツイッターでみっともない写真が表示されても耐え忍ぶのかの選択に直面している。

 先月は、フェイスブックとソーシャル・ゲームのジンガの提携も破談になった。ジンガはフェイスブック上で成長してきたサービス。ジンガの収入の80%はフェイスブック経由でもたらされ、またフェイスブックもその収入の13%をジンガのおかげで得ている。以前は、フェイスブックがジンガのおかげでようやく収入を得ているという時期も長らくあった。

 ところが、フェイスブックはジンガとの契約を打ち切った。ジンガがフェイスブック上で得ていた広告や勧誘などの特別プロモーションを中止して、今後はたくさんあるその他大勢のソーシャル・ゲームサイトと同じ扱いになるという。折しもジンガはソーシャル・ゲームが翳りを見せ始めて業績が低迷しており、ここ数ヶ月はレイオフのニュースばかり。ここでフェイスブックとの絆が断ち切られればかなりの痛手になるはずだ。だがフェイスブック側からみると、低迷するサイトと独占契約をするよりも、もっと裾野を広げておきたいということだろう。

 もう数カ月さかのぼれば、アップルとグーグルの地図アプリの件もあった。iPhoneなどアップルのモバイルに標準装備されていたグーグルの地図アプリが、突然追放された。替わりに登場したアップル製の地図アプリが、ひどく見当違いの場所を表示するお粗末なものだったことからアップルは大恥をかいた。そんな未完成品であったにもかかわらず、ともかくグーグルのアプリを追い出したい一心だったわけだ。

 なぜこうした離婚が起こるのか。

 ここで起こっている話を人になぞらえると、結構ひどい話だ。最初は特別な契りを結んで、わきあいあいと仲がいい。一方が持っている広い交友関係へもアクセスして、みんなで楽しくやっているように見える。ところが、その交友関係をほぼ完全に共有する頃になると、交友関係を提供してくれていた相手を切ったり、その共通の友人たちに「あちらかこちらか、どちらかを選べ」と迫ったりするのだ。何だか、イヤな奴っぽくないだろうか。ここで言う交友とは、もちろんわれわれユーザーである。

 どのケースにも共通しているのは、当初は多くのユーザーを持つサービスやサイトと提携したり、居候することからスタートし、そのおかげで大きな成長を果たす。ところが、自分の成功が確かになると、突然手のひらを返したような動きに出るということだ。

 その背景にあるのは、どのサービスも、ユーザーを自分のサイトだけに留めておきたいという欲を持ち始めることだ。自分のサイトでユーザーが長居すれば、それだけ広告主へのアピールができるし、今はユーザーの行動データを取ることによって、それを売り物にしたり、さらに高い広告費を取ったりすることができる。インスタグラムの場合は、同社を買収したフェイスブックとツイッターとのユーザーの取り合いだ。

 迷惑をこうむるのはユーザーである。これまで楽しんで使っていたユーザーの都合を無視して、自分たちの勝手でくっついたり離れたりするのだ。つまり、ユーザー・データが欲しいあまりに、ユーザー自身がその犠牲になっているのだ。妙な話である。

 考えてみれば、たかがインターネット上で起こっているに過ぎない事態を大騒ぎしているわれわれも、同じくらい妙なものだとは思う。まるで家路へ続く橋が焼き落とされてしまったかのような怒りと狼狽ぶりだ。

 だが、ここでは不都合以上に目を向けるべき重要なポイントがふたつある。ひとつは、ユーザー・データがこれほどまでに、本格的に重要になってきたということ。各サービスはユーザー・データをたくさん集め、それを独り占めしようと必死になって、ユーザー自身すら二の次にしなければならなくなっているということだ。われわれのネット上の行動が、われわれの知らないところで本当に売れる商品になる時代がすでに到来しているということである。そしてもうひとつは、そのせいで、この手のサービスは今後どんどん壁で仕切られていくようになるということである。

 だから、今目にしている離婚話はほんのさわりであって、これから同じようなことがどんどん起こると考えておいた方がいい。そんな動きを起こさせるもっと大きな原動力の方にこそ、目を向けておくべきである。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、重要インフラでの中国製機器の使用を禁止へ=F

ワールド

イラン抗議デモ、死者3000人超と人権団体 街中は

ワールド

韓国、米のAI半導体関税の影響は限定的 今後の展開

ワールド

カナダの中国製EV輸入緩和、「後悔することになる」
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手がベネズエラ投資に慎重な理由
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 8
    イランの大規模デモ弾圧を可能にした中国の監視技術─…
  • 9
    日中関係悪化は日本の経済、企業にどれほどの影響を…
  • 10
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 8
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 10
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story