コラム

エージェンシーとメディアの垣根を壊す

2009年05月27日(水)16時09分

 ニューヨークに10日間滞在した後、私はパリにきた。ニューヨークを発つときは、いつものことながら疲れきっていたが、頭はさまざまなアイデアで破裂しそうだった。

 最初の3日間は、自分たちの写真エージェンシー「セブン(VII)」の年次総会で、どうしたらエージェンシーが今を生き抜き、未来の繁栄を手に入れられるかを話し合った。また戦略は明かせないが外部から少人数の写真家を招き、新しい出版事業を委託した。これでわれわれは単なる写真エージェンシーから大きく前進し、出版とメディアの世界に踏み出すことになる。エージェンシーや新聞、雑誌の間のバリアーは、時間の経過と共に今後ますます曖昧になる。将来はわれわれも、第三者であるメディアのフィルターを通してではなく、直接お客の声を聞くようになるだろう。

 私がここで唯一恐れているのは、われわれまでが今のメディアと同じ制約を受けるようになりはしないか、ということだ。もしそうなったら、われわれの作品にはどんな影響が出るのだろう。なかなか興味深い問題だ。

 事業多角化と仲間を広げる話の続きだが、5月21日の木曜日に自分の個展を開いた。私がエディターを務める雑誌「ディスパッチズ(Dispatches)」に掲載した「Out of Poverty」というシリーズの写真を、ニューヨークのダンボ(アーティストが多く住む倉庫街)のVIIギャラリーで展示している。スポンサーはキヤノンだ。

 面白いのは、ディスパッチズの一部は写真家である私が所有しており、写真エージェンシーのVIIの一部も私が所有しており、ギャラリーも自前だということ。スポンサーのカメラメーカーは、展覧会の翌日にこのギャラリーで写真プリントのワークショップを開いた。われわれは、自分が大切と思う仕事を支援し、普及させるための新しい道を見つけなければならない。そうしている間に、われわれは強くなるのだと思う。

 私がこの仕事を始めたとき、私は雑誌で働き、フィルムを週に1回飛行機でエージェントに送り、自分で撮った写真を見るのは年に1回ニューヨークに帰ったときだけだった。今ではコラボレーションという新しい考え方があるが、当時ならバカげていると言われただろう。

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写真展「Out of Poverty」
作品の一部をPicture Power「救われないスラムドッグの真実」に掲載中

 写真家はますますメディア以外の後援者を探すようようになった。また旧メディアの枠に捕らわれずインターネットや携帯電話など新しい手段であらゆるイメージにアクセスするようになった洗練された消費者に、どうしたら自分たちが撮影する世界を最高の形で見せられるのかについても議論も盛んに行っている。

 5月22日金曜日には、写真家のティム・ヘザリントン(2008年世界報道写真コンテスト大賞受賞者)、スティーブン・メイエス(セブン(VII)ディレクター)と、写真家が伝える戦争についての公開討論を行った。この討論は録音したので、次のエントリーでその抜粋を紹介したい。

(C) photographs by Gary Knight

プロフィール

ゲイリー・ナイト

1964年、イギリス生まれ。Newsweek誌契約フォトグラファー。写真エージェンシー「セブン(VII)」の共同創設者。季刊誌「ディスパッチズ(Dispatches)」のエディター兼アートディレクターでもある。カンボジアの「アンコール写真祭」を創設したり、08年には世界報道写真コンテストの審査員長を務めたりするなど、報道写真界で最も影響力のある1人。

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