コラム

新聞記事の意外な続報を知る

2012年08月09日(木)18時47分

 今年5月、アフガニスタンの女子校で女生徒が集団で倒れた。女子が学校で教育を受けることに反対しているタリバンが、毒を盛ったらしい......。

 こんな記事を新聞の国際面で見つけました。小さな記事ながら、「うーん、タリバンならやりかねない。なんということだ」との感想を持ったものです。

 ところが、真相はそうではなかったらしいというのが、本誌日本版8月8日号の記事『少女集団中毒の不可解な結末』でした。

 事件が起きたのは5月23日。アフガニスタン北部の公立女子校で、全校生徒約1200人のうち127人が卒倒したり、めまいや不安を訴えたりして病院に搬送されたというのです。「大半は数時間で回復し、自宅に戻ったが、毒物による症状と診断された」。

 その後も事件は続き、4~6月で周辺地域の7校の女子生徒1000人以上が同じ症状を訴えました。

 6月6日、アフガニスタンの国家保安局が容疑者15人を逮捕。この中に地元の女子校生2人も含まれていました。逮捕された女子校生がタリバンに脅されて毒物を使うように強制されたと自供するビデオテープも公開されました。

 ところが、国連やWHO(世界保健機関)が調べても、毒物の痕跡が見つかりません。学校内にいた男性は誰も症状を起こしておらず、被害を訴えたのは、ほとんどが若い女性でした。研究者たちは、一連の症状を「集団心因性疾患」と推測しているというのです。

 これを別の言葉にすれば、「集団ヒステリー」です。今年1月にはアメリカでチアリーダーが一斉にけいれんを起こしたことがあり、これも同じ原因だということです。

 しかし、いったん「タリバンが毒物を使った」との風評が広がれば、治安当局は成果を上げなければなりません。それが、拷問によって得られた女子校生の供述というわけです。

 タリバンなど関係なかったのです。でも、当局にはタリバンの犯行としておいたほうが都合がいいようです。タリバンの「下っ端の戦闘員には録画の自白を信じ、タリバンに幻滅する者もいる」からです。

 治安当局にとっては、きちんと捜査をしているという実績が残り、タリバンが勢力を弱める。一石二鳥です。

 タリバンの攻撃に脅える日々の中で、若い女性たちにのしかかっているストレスがどれほどのものか。アフガニスタンの現状を浮き彫りにする優れた記事でした。新聞の短信のその後を調べると、思わぬ事実が発掘される。これは、その典型的なリポートです。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ニュージーランド経済、予測上回るペースで推移=財務

ワールド

台湾、4月より前の天然ガス不足ない=経済部長

ビジネス

中東情勢悪化に伴う経済影響、予断持って判断するのは

ビジネス

景気一致指数1月は2.5ポイント上昇、生産押し上げ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ルートとは?...スクワットの真実
  • 2
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 3
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリアルな街で考える60代後半の生き方
  • 4
    「溶けた金属のよう...」 ヨセミテ国立公園で「激レ…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異…
  • 7
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    最後のプリンスが「復活」する日
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 5
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story