コラム

「ロムニーで決まり」はつまらないが

2012年01月11日(水)13時45分

 アメリカ大統領選挙を11月に控え、共和党の候補者選びが始まりました。各州で党員集会や予備選挙を実施して、その獲得票数に応じ、8月の党大会に出席する代議員を誰が確保するか決めるのです。

 1月3日に実施されたアイオワ州の党員集会では、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事とリック・サントラム元上院議員がいずれも25%の票を獲得しました。票数ではロムニー氏が8票上回り、「勝利」と報じられましたが、この州では代議員の数は獲得票数に比例して配分されるため、代議員数は同数。つまり差がつかなかったのです。

 1月10日に行なわれたニューハンプシャー州での予備選挙では、ロムニー氏が圧勝。ロン・ポール下院議員が2位につけ、サントラム氏は5位に終わりました。

 アイオワ州でのロムニー、サントラム両氏の選挙運動を取材した私としては、サントラム氏の予想外の健闘で、選挙戦はこれから面白くなるぞと思ったのですが、ニューハンプシャー州での結果を見ると、事前の予想通り。今後は凡戦になる予感もします。

 と思っていたら、本誌日本版1月18日号が、「共和党候補指名レースのつまらなすぎる結末」という記事を掲載しました。この記事は、こう書きます。

 「米共和党の大統領候補選びはこれからが面白い----マスコミはそうあおり立てるだろう。だが惑わされてはいけない」と。有力候補はロムニー氏しかおらず、ロムニーで決まりなのに、それでは面白くないので、マスコミが、「読者の関心を引くために弱小候補を持ち上げる」というわけです。

 そう言われてしまっては、それこそ面白くないのですが、次の指摘は頷けます。

 「地方のテレビ局にすれば予備選段階での政治広告は大事な収入源。候補者選びが2月28日のミシガン州予備選で事実上決着してしまおうものなら広告収入が失われる」

 これは、まったくその通りです。私がアイオワ州に滞在中、地元のテレビ局は、どのチャンネルも、候補者たちのコマーシャルであふれていました。アメリカは対立候補を貶めるネガティブキャンペーンも盛んなため、この広告も頻繁に登場します。ニュート・ギングリッチ元下院議長の業績を称えるCMの直後に、ギングリッチの過去の行跡を批判するCMが流れるのですから、おかしなものです。テレビ局は、両方から収入を得られるのです。

 アイオワ州は、全米で最初に党員集会を開くことが州法で決まっていますが、その訳が、これでわかりました。全米で最初だからこそ、各候補は全力をアイオワ州に注ぎ込み、資金も潤沢に流れ込む。地元テレビ局の経営にもプラス。町興しなのです。

 広告収入がほしいマスコミとしては、候補者選びがもつれてくれればくれるほど、売り上げが伸びる。だから「弱小候補を持ち上げる」というのは、企業の経営面からいえば、その通りなのでしょう。

 でも、現場で取材した立場からいうと、「それはそうだろうけど・・・」という思いが残ります。各候補が接戦を続ければ、取材するほうもワクワクします。この高揚感は、現場ならではのものです。

 それに、決着がもつれこめば、各社の記者は、全米を転々と出張できるではないですか。「接戦だ。これからが面白い」とリポートすることは、記者自身の利害にも関係してくる気がします。

 そんな視点で、共和党の候補者レースを見ていただければ、余計に面白く見ることが・・・・・・えっ? なんだか白けてしまうって?

 それはまた、失礼しました・・・。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

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