コラム

グーグルは中国に勝てるのか

2010年01月26日(火)17時54分

 グーグルが、中国からの撤退を示唆したことを、どう考えればいいのか。本誌1月27日号が特集を組んでいます。

 一般論で言えば、インターネットの検索内容に介入する中国政府のやり方は許し難いですし、言論統制に戦う姿勢を見せたグーグルには拍手を送りたくなります。グーグルの社是は「Don't be evil」(邪悪になるな)。その通りに行動したということなのですから。

 その一方で、だったらなぜ最初から中国政府による統制・介入と戦わなかったのか、中国市場に参入してみたが収益が上がらなかったので、撤退の理由に言論統制を掲げたのではないかという意地の悪い見方もできます。

 インターネットが登場した当初は、「インターネットによってさまざまな情報が世界を行き交い、世界はひとつになる」というバラ色の未来が語られました。

 しかし、実際には中国のように、ジョージ・オーウェルが描いた『1984』が現実になってしまいました。これを、どう見るのか。

 本誌国際版編集長のファリード・ザカリアは、「本気で世界の大国になりたいなら、中国は対外的な順応性を示し、世界を覆う現代的な潮流を受け入れるべきだ」と主張します。

 また、ビジネス担当のダニエル・グロスは、「21世紀に繁栄を遂げるためには、優れた『ソフトウェア』が欠かせない。そして優れたソフトウェアをつくるためには、物だけでなく、情報の流通を後押しすることが必要なのだ」と、中国が情報統制を続ける限り、中国には「成長の限界」が訪れると指摘します。

 その一方で、ジャーナリストのマーチン・ジャクスは、ザカリア流の論調に異論を唱えます。

「中国を欧米型国家の卵としてではなく、独自の流儀と歴史を持つ国家として捉えた上で理解に努めない限り、今後も誤解が連続するだろう」「インターネットは思想や情報の自由な交換という文化の精髄であり、政府による制約を受けず、その利用は世界に広がっている。これが欧米の考え方だ。だが中国政府は、ネットの検閲や規制は可能だと証明している」と。

 こうした多様な見解を読むことができるのが、本誌のいいところ。とはいえ、このままでは終わらせないと編集部は考えたのでしょうか。最後に本誌テクノロジー担当のダニエル・ライオンズが、こう締めくくっています。「インターネットはどの国よりも大きな存在だ。中国のような大国でもかなわない」と。

 結局、本誌編集部の「語らざる本音」は、このあたりにあるのでしょう。中国は欧米とは異質な国家であり、欧米の常識で未来を予測しては間違う。しかし、インターネットの力は、国家でも制御しきれない、と。

 平然と「何でもあり」の商売を繰り広げてきた中国に、本誌の良識ある記者たちの常識が、果たして通用するものなのか。私はいささか疑念を持つのですが、そうは言っても、本誌の分析に代わるものを私が持っているわけでもないのが、辛いところなのです。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

次期FRB議長の条件は即座の利下げ支持=トランプ大

ビジネス

食品価格上昇や円安、インフレ期待への影響を注視=日

ビジネス

グーグル、EUが独禁法調査へ AI学習のコンテンツ

ワールド

トランプ氏支持率41%に上昇、共和党員が生活費対応
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story