コラム

日本はいまだに「不思議」なのか

2009年08月11日(火)15時00分

「外からの目」というのは貴重です。私たちがふだん疑問に思わないことを、「これはおかしい」と指摘してくれるからです。7月29日付日本版に、本誌ビジネス担当のダニエル・グロス記者の「ディスカバー不思議ニッポン」という記事が掲載されています。6月から7月にかけて10日間、「アメリカ人ジャーナリスト一行」として日本各地を見て回った取材記です。

 彼の日本訪問は初めてだそうです。初めてだからこその新鮮な印象記なのでしょう。

 しかし、その印象記には、強烈な皮肉(毒というべきでしょうか)が混じっています。日経新聞のオフィスを訪ねると、日本の同業者がカジュアルな服装をしています。「どうやらオフィスビルのエアコンが故障したらしい。東京のオフィスの中は、まるでマイアミのような蒸し暑さだった」。

 もちろんこれは、日本の「クールビズ」を皮肉っているのですね。エアコンが故障したわけではないことは、最初からわかっているくせに。

 皮肉はさらにエスカレートします。「クールビズは日本にとって逆効果なのではないか」「1年のかなりの部分を暑い室内に籠もっていると、事業計画を作成する意欲も子孫を増やそうとする気持ちも萎える」と。余計なお世話。いや、皮肉ではなく悪意かな。

 このあたりの描写では、読んでいて辟易するのですが、「おっしゃる通り」という部分もあります。

 日本はロボット・IT技術が世界トップレベルなのに、「どこへ行っても過剰なくらいの人がいて、やらなくてもいいことや1人で簡単にできることに貴重な時間を割いているように思えた」「報道陣がめったに行かないような政府機関でも、広報担当者が何人もいる」。アメリカの企業や政府機関を訪れると、主要なデータや資料はメモリースティックやCD-ROMで渡されることが多いのに、「日本では、行く先々で大量の書類が待っていた。手間暇掛けて印刷したものを、仰々しく手渡されるのだ」

 この指摘は、その通りでしょうね。日本のホワイトカラーの生産性が工場に比べて著しく低いことは確かですから。

 では、なぜ日本はそんな状態なのか。

「日本の非効率性は、完全雇用を望む社会であることと関係があるのかもしれない。たとえやらなくてもいいような仕事でも、まったく働かないよりはまし、というのが日本式の考え方だ」。

 うーむ、どうしてこうも「日本異質論」になってしまうのでしょう。この記者が見て回った「人が大勢いる」部門は、良質なサービスが求められるサービス産業と、役所か準役所のような非効率的な職場に限られているのに。

「外からの目」は、私たちの目を覚ましてくれることもあれば、突っ込みどころ満載の笑える「指摘」の場合もあるのですね。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story