コラム

「発展した国は明るく見えるように」「紛争も『光』として確認」 油井亀美也宇宙飛行士が語る地球10年の変化、アルテミス計画への思い

2026年04月10日(金)22時05分

もっとも宇宙飛行士といっても性格はさまざまで、口に出すことで前向きに努力しようとする人、行きたい気持ちを胸に秘めて同僚のふさわしい部分を語る人など、「月飛行への思い」の表現は人それぞれです。ただ、取材を通して「JAXA宇宙飛行士の中の誰が行っても誇らしい」と思っているところは全員に共通しているように感じます。

自身の月飛行について油井さんはどのように考えているのでしょうか。

「年を取ってる人(自分)が行くと、皆さんがあまり夢を感じないんじゃないかな」と謙遜しつつ「若手をいかに育てて、日本を代表して人類を代表して月に送り込むという部分を頑張りたい」と後進の育成への思いに力を込めます。


一方、「危険だから若い人は行かせられないということなら喜んで行きます」「アルテミス2の宇宙飛行士が撮影した月の写真を見て『自分も撮ってみたいな』とは思いました」と複雑な心境も語られました。

いずれにしても、「若手には早く自分の域まで達して、追い越してほしい」という先輩宇宙飛行士としての矜持と責任感が伝わりました。

油井さんは現在も、地上で月着陸船シミュレーターのデータ取得をするなど、アルテミス計画に貢献しています。

5. ロボットアームでつかんだHTV-Xへの期待

今回のミッション報告で油井さんがハイライトの一つとして挙げたのが「新型補給機HTV-Xの把持(キャプチャー)」です。

HTV-Xは09~20年まで運用されていた「こうのとり(宇宙ステーション補給機:HTV)」の後継機として開発されました。「こうのとり」と比べて、貨物の搭載能力や運用性が向上し、輸送だけでなく宇宙での様々な技術実証を行える点が進化しているところです。

「金色の宝箱のような機体が、力強く、美しく、私たちの方に向かってきてくれた」と、油井さんは声を弾ませます。

NASAでは星出彰彦宇宙飛行士が油井さんとの交信を担当、JAXAのYouTubeチャンネルでは大西卓哉宇宙飛行士が解説を務めるなか、油井さんは危なげなくHTV-Xをロボットアームで把持。ドッキング後は、ハッチが開くと最初に入室しました。

「HTV-Xはハッチが大きく、使い終わった何百キログラムもある実験ラックをそのまま(帰りの便に)入れて廃棄できるので、国際的にも非常に評価されています。将来は宇宙実験に使うなど、柔軟性のある設計になっているところが魅力です」

補給船で物資が届くと全員で片付けにかかりきりになるそうですが、日本人らしい整然とした積載とハッチの大きな間口には助けられたようです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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