コラム

「発展した国は明るく見えるように」「紛争も『光』として確認」 油井亀美也宇宙飛行士が語る地球10年の変化、アルテミス計画への思い

2026年04月10日(金)22時05分

6. ISS老朽化で居住性は?

ISSは、老朽化や民間宇宙ステーションへの移行などを理由に2030年に運用終了とされていました。しかし今年3月、米上院商業科学運輸委員会は運用期間を2年延長して32年とする法案を承認しました。背景には、ロシア側では複数回、空気漏洩などの深刻な出来事があったもののアメリカ側では比較的老朽が問題化していないことや、民間宇宙ステーションの開発遅延があります。

実際にISSは宇宙飛行士が危ぶむほど施設が古いのでしょうか。


油井さんは「10年ぶりに行きましたが、整備が行き届いていて明らかに老朽化しているという感じではなく、むしろ環境は快適になっています」と語ります。二酸化炭素のレベルは10年前と比べると呼吸していても分かるくらい低く、ISS内は「非常にいい空気」で、水の再生装置やトイレの環境も改善されていたそうです。

また、人類はISSの完成から25年間、宇宙に居続けています。民間宇宙ステーションへの移行がスムーズにいかないと、この記録が途絶えてしまいかねません。

「壊れる前にうまく交換することで、実際の想定よりも老朽化は少なくなっていると思いました。月や火星を目指す時代が来ても、低軌道(地球を周回するISSなどが取る軌道)での実験や地球観測の意義は変わらないので、続けていく必要があると思います」

7. 日本の宇宙開発へのエール

25年度下半期は、HTV-X関連の明るいニュースもありましたが、12月のH3ロケット8号機打ち上げに失敗、3月には民間ロケット「カイロス」3号機も失敗するなど、宇宙開発の困難さも浮き彫りになりました。現在、日本は官民とも衛星を宇宙に届ける手段がない状態となっており、国内外の需要に応えられない状況に立たされています。

油井さんに率直な感想を聞きました。

「心配するニュースを聞くたびに、宇宙開発に携わる一員として『もっとしっかりしなければいけないな』とか『難しいチャレンジだとご理解をいただきたいな』と感じます。私自身の人生もそうなのですが、諦めなければ悪かった結果も『自分の成長のために必要だった』とか『この道に進むために必要だった』と思えるようになります。なので、現在の一見悪く見える状況を次にどうやって活かすのか、ということが大事です」

◇ ◇ ◇

奇しくも会見が開かれた9日、政府とJAXAは打ち上げ失敗により運用停止中だったH3ロケットの打ち上げを再開し、6月にも試験機を打ち上げる方針を固めました。早ければ8月以降、2カ月おきに人工衛星を載せて打ち上げる見込みで、本格運用を目指します。

11日には、油井さんも個人的によく知っているという4人の宇宙飛行士を乗せた「アルテミス2」の宇宙船が地球に帰還する予定です。人類最遠到達地点の記録を更新した本プロジェクトに対し、「新しい時代の幕開けで応援しています。今後の発展を願うとともに、まずは無事に帰ってきてほしいです」とエールを送りました。

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筆者撮影

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プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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