コラム

「世界最古」の山火事と「過去最悪」の最新事情、山火事発生の原因に見る日本の特殊性

2022年06月28日(火)11時30分

日本では諸外国と比べると、大規模な山火事のニュースを見ることはほとんどありません。

林野庁のデータによると、2015年から19年までの5年間では、1年間に約1200件の山火事が発生し、延焼面積は約700ヘクタールでした。損害額は年間約3億6000万円です。
これを1日あたりに換算すると、全国で毎日約3件の山火事が発生し、約2ヘクタールの森林が燃え、100万円の損害が生じていることになります。

日本では、山火事の約7割が冬から春(1~5月)に集中して発生しています。林野庁は冬に多いのは、①森林内に落ち葉が積もって燃えやすい状態になっている、②風が強い、③特に太平洋側は乾燥しやすい、と山火事になりやすい自然条件が重なるためと説明します。対して春先は、行楽や山菜採りで山に入る人が増加したり、農作業に由来する枯草焼きなどが山林に飛び火したりすることも関係があると言います。

さらに15年から19年の5年間に発生した山火事で原因が明らかなものでは、「たき火」が30.2%で最も多く、「火入れ(17.5%)」、「放火(疑い含む、8.4%)」、「たばこ(5.1%)」「火遊び(2.3%)」と続きます。つまり、日本では落雷などの自然現象による発生は稀で、多くが人間の不注意などによるものとなっています。

もっとも、今年は27日に関東甲信、東海、九州南部で梅雨が明け、全国的にも観測史上最速レベルの梅雨明けが予測されています。25~27日には東京都心で6月では1875年以来の観測史上初となる3日連続の猛暑日に見舞われました。(編集部注:気象庁は28日、北陸、近畿、中国、四国、九州北部の梅雨明けを発表)

昨年よりもコロナ禍による移動自粛が緩和されたこともあり、行楽で山に入る人も増加します。自然条件と人為的な原因が重なったときに、諸外国のような「夏の大規模な山火事」が起きる恐れもあります。火の取り扱いの不注意が起こらないように、改めて防火意識を高めることが大切でしょう。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏一族企業のステーブルコイン、アブダビMG

ワールド

EU、対米貿易関係改善へ500億ユーロの輸入増も─

ワールド

ウクライナ南部ザポリージャで14人負傷、ロシアの攻

ビジネス

アマゾン、第1四半期はクラウド部門売上高さえず 株
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story