コラム

WikiLeaksアサンジは、結局「正しかった」のか? スノーデンとは実は「微妙」な関係

2022年07月02日(土)18時59分
ジュリアン・アサンジ

エクアドル大使館で暮らしていたころのアサンジ(2017年) Peter Nicholls-REUTERS

<ついにアメリカに身柄が引き渡される可能性のある「ウィキリークス」のアサンジだが、これまでの軌跡とスノーデンとの微妙な関係を紐解く>

2022年6月17日、イギリスの内務省は、かねてからアメリカ政府によって要求されていた内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者、ジュリアン・アサンジ被告の身柄送致を承認した。

アサンジは、米政府や米軍などの機密情報をウィキリークスのサイトで暴露したとして、米司法省からスパイ防止法違反など18件の罪で起訴されており、2019年からイギリスで拘束されてアメリカへの身柄の引き渡しをめぐる協議が続けられていた。

アサンジ側は7月1日、イギリス内務省の決定を不服として、高等法院に申し立てを行った。これからまたアサンジの処遇をめぐって協議が続けられることになる。

そもそもは機密情報の暴露で知られるようになったアサンジだが、2010年に訪問先のスウェーデンで女性への性的暴行の容疑をかけられ、イギリス滞在中に逮捕された。裁判を逃れるために在英エクアドル大使館に逃げ込んで、そこから2019年まで籠城生活を続けたものの、その後イギリス当局に拘束され、現在に至っている。

アサンジが率いるウィキリークスの活動については当初から賛否が渦巻いていた。

ウィキリークスが暴露してきた内部告発では、大量の米国務省の外交公電や米軍の内部文書などを、無修正のまま忖度なく公開してきた。米国務省などに協力している他国の関係者の名前もそのまま公開していた。

アメリカの「不都合な真実」を白日の下に

筆者はこれまで、取材などで米政府や米軍関係者たちにウィキリークスについての見解を聞いてきたが、ほとんどが「彼らは米政府を危険にさらしてきた」「政府の安全保障に大打撃だ」と激しく非難していた。実名も公開されることで、国外の米大使館関係者らが信頼を失い、協力者らを失うケースもあったようだ。

こう見るとウィキリークスが「やりすぎ」な部分もあるという指摘は理解できなくはない。他方で、米軍が隠してきた「不都合な真実」を白日の下にさらしたケースもあった。

例えば2007年には、イラク戦争後から混沌としていたイラクで、ロイター通信社のイラク人カメラマン2名が、米軍のヘリコプターからの誤射によって殺害された。カメラマンらは筆者の元同僚だったのでよく覚えているが、当時、米軍の発表ではカメラマンらが戦闘に巻き込まれて犠牲になったということになっていた。

しかし、ウィキリークスが米軍の機密書類の中から暴露した動画(閲覧注意)には、米軍がカメラマンらをテロリストと間違って殺害した様子が映っていた。これによって米軍の嘘がばれる形になった。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米関税で見通し引き下げ、基調物価の2%到達も後ずれ

ワールド

パレスチナ支持の学生、米地裁判事が保釈命令 「赤狩

ワールド

イラン、欧州3カ国と2日にローマで会談へ 米との核

ワールド

豪総選挙、与党が政権維持の公算 トランプ政策に懸念
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story