コラム

中国に「平伏する」ハリウッドで、『トップガン』が反撃の狼煙を上げる

2022年06月18日(土)16時53分
『トップガン マーヴェリック』

ジャケットのワッペンが変わっていた 「スパイチャンネル~山田敏弘」より

<予告編ではトム・クルーズが着用するジャケットに「中国の顔色伺い」が表れていたが、本編では「ハリウッドの中国離れ」とも見られる兆候が>

5月27日に公開になった映画『トップガン マーヴェリック』が大ヒットを記録している。

1986年にアメリカで製作された第一作目の『トップガン』は、36年にわたって続編が待たれてきた。続編の製作は、2016年頃から本格的に動き始めたと見られ、2017年6月に主演のトム・クルーズが映画のタイトルは『トップガン マーヴェリック』になると初めて認めている。

もともとこの作品は2019年に公開される予定だったが、紆余曲折があった。制作自体が遅れて2020年6月に公開が延期されると、今度は新型コロナウイルス感染症の蔓延で、映画を映画館で上映できる状況ではなくなった。一旦は2021年公開に延期されたが、結局、2022年5月にやっと上映が始まった。

そんな『トップガン マーヴェリック』だが、今回、上映に際して話題になった話の一つに、劇中でトム・クルーズが着用するフライトジャケットがある。そこに中国の影がちらついていたからだ。

実はこの映画の最初のトレーラー(予告編)が2019年に発表されたとき、第一作目で主演のトム・クルーズが着用していたフライトジャケットにつけられていた日本と台湾の旗のワッペンが、なぜかよくわからないワッペンに差し代わっていたとして話題になった。

その理由として、中国の存在があると指摘されたのである。というのも、中国の大手IT企業のテンセントがこの作品に投資することを2019年に発表していたからだ。米ウォールストリート・ジャーナルによれば、「テンセントの幹部らは、米軍を賞賛しているこの映画に関わることで、中国共産党高官らがこの映画に怒る可能性があると考えて、資金援助から手を引いた」という。

ますます強まる中国の影響力

もちろん、中国資本からの投資や、中国で映画公開をする際の中国市場の大きさ(世界最大)を考えれば、ビジネスとして中国に忖度するのは当然とも言える。それでも「節操がない」という批判を受けるのは仕方がないだろう。

この例を見るまでもなく、中国のハリウッドに対する影響力はますます強くなっているようだ。

振り返ると、いまも語り継がれているケースがある。1997年に公開されたハリウッド映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』の上映後から、主演のブラッド・ピットの映画は中国で何年も上映できなくなっていたという。その後、中国が経済成長するにつれ、そうした「弾圧」は強くなってきた。しかも映画に関連する商品なども禁止するようになった。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米製薬メルク、肺疾患治療薬の英ベローナを買収 10

ワールド

トランプ氏のモスクワ爆撃発言報道、ロシア大統領府「

ワールド

ロシアが無人機728機でウクライナ攻撃、米の兵器追

ワールド

PKK指導者、対トルコ武装闘争終結宣言 拘束以来初
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story