コラム

アサド後の「真空地帯」──ISとアルカイダが舞い戻るシリアの現実

2025年08月07日(木)17時01分

アサド政権崩壊後、暫定大統領アフマド・アル・シャラア率いるハヤト・タハリール・シャーム(HTS)がシリアの政治・軍事の中枢を握った。HTSはかつてアルカイダのシリア支部であったアル・ヌスラの後継組織であり、23人の閣僚のうち9人がHTSと直接的または間接的に関連しているという。

特に外務、国防、内務、司法といった主要省庁のトップがHTS系人物で占められている点は、統治の方向性に大きな影響を与えている。


しかし、HTSの指導者であるシャラアや内務大臣アナス・ハッタブは実務派とされる一方で、下部組織の戦闘員には過激なイデオロギーを保持する者が多い。これが、統治の統一性や安定性を損なう要因となっている。

特に、2025年3月にシリア沿岸部で発生した宗派間暴力や虐殺事件には、HTS関連グループ、トルコが支援するシリア国民軍(SNA)、そしてアルカイダ系のフッラース・アル・ディンが関与したとされ、統治の困難さを浮き彫りにしている。

外国戦闘員の統合と新たなリスク

今日、シリアに存在する外国人戦闘員が5000人以上いるとも言われ、特に中央アジア出身の戦闘員が暫定政府の方針に不満を抱き、独自の行動を取る可能性がある点だ。

注目すべきは、トランプ政権が外国戦闘員のシリア軍への統合について。例えば、アルカイダと関連のあるウイグル系武装組織「トルキスタン・イスラム党(TIP)」が、暫定政権下のシリア軍に組み込まれた。

しかし、暫定政府はすべての派閥を完全に掌握できておらず、過激派思想を持つグループが依然として独立して活動している。

こうしたグループの中には、カティバト・アル・タウヒド・ワル・ジハード(Katibat al-Tawhid wal-Jihad)」、「アジナド・アル・カウカズ(Ajnad al-Kawkaz)」「カティバド・アル・ゴラバ・アル・ファランシヤ(Katibat al-Ghoraba al-Faransiya)」などがある。

これらの組織は、アルカイダ系グループと物流や情報を共有しており、シリア国内だけでなくアフガニスタン、アフリカ、イエメンへの移動を模索しているとされる。この国際的なネットワークの拡大は、シリアを越えたテロの脅威を増大させる要因だ。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

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