コラム

IoT(Internet of Things)の次、IoB(Internet of Bodies)への警告

2017年09月28日(木)18時30分

身体機能の拡張も

健康管理やハンディキャップの克服という目標以上に、身体機能の拡張を求めるためのIoBも検討されるだろう。いささかSFチックになるが、サイバー兵士を求める各国の軍が密かに研究開発を進める可能性はある。

マトウィーシン教授は軍事利用まで直接的には言及しなかったが、スマートスーツのように身にまとうことによる機能拡張はすでに実用化段階である。身体の外側ではなく、体内にデバイスを入れ、それをネットワークに接続して何ができるかが検討されることになる。そうなれば、マトウィーシン教授のいう倫理的な問題は深刻になる。

冒頭で紹介した映画『The Circle』では、子供が誘拐されないように子供にICチップを埋め込む研究をしているという同僚に主人公がギョッとするシーンもある。子供が犯罪に巻き込まれるのを阻止したいという強い欲求がそうした研究に取り組ませていることが示唆されている。

子供が対象ではないが、すでに体内にICチップを埋め込む試みは行われている。そのICチップが外部と通信し始めると予想外のことが起きるかもしれない。

こうしたことに対して先回りして倫理的・法的な検討をすべきだというのがマトウィーシン教授の提言である。

国際的な調整は可能か

聴衆からは、米国だけで規制を考えてもだめで、国際的な協力を考えなくてはいけないのではないか、あるいは、官民の調整も必要ではないかという質問も出た。文化的・倫理的な価値観は国によって異なる。国際的な調整は簡単ではないだろう。

国際社会はサイバーセキュリティの国際合意にも難渋している。ビットコインをどう扱うか、各国の金融当局は苦悶している。もっと難しそうなIoB規制をめぐる国際合意は可能だろうか。深刻な事態が露見すれば、一気に国際規制枠組みが作られる可能性もあるが、現段階では難しいだろう。

IoBという言葉は新しくても、コンセプト自体はそれほど新しくない。考えてみれば、多くの人がスマホを肌身離さず持ち歩いていることを考えれば、すでにそれは身体の一部といっても良い。我々が想像できることのほとんどは実現可能だともいわれる。IoBはIoTの先に待ち構えているだろうか。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:軽飛行機で中国軍艦のデータ収集、台湾企業

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story