コラム

「方針に異論があるなら転校を」...教育を軽んじ、教師を馬鹿にする日本社会が学ぶべきこと

2023年08月16日(水)20時19分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
日本の学校の授業風景

XAVIERARNAU/ISTOCK

<現代の日本が停滞する大きな原因は教育。「教育大国イラン」と比較しても、教師が「教育以外」で疲弊する学校の現状は改革が必要だ>

近年、公立小中高校の教師の待遇が良くない、というニュースを頻繁に目にするようになった。最近でも、休職する教員の穴埋めをする代替教員が大幅に不足している話や、精神疾患で離職する教員の数が過去最多になったことなど、暗いニュースが多い。

私は以前から日本の公立学校の教員の働き方を耳にするたび、信じられない思いでいた。小学1年生の子がいる知り合いは担任の先生から「質問があればいつでもご連絡ください、夜9時くらいまでは毎日学校にいますので」と言われたという。

夜9時まで学校にいて私生活は成り立つのだろうか? 教員は残業代は出ず給与月額の4%しか支給されない。その先生にはありとあらゆることについて保護者から毎日のようにクレームが来たそうだ。案の定、その人は病欠となった後1年たっても復帰していないという。

イランは中東では断トツに教育熱心な国

ところで、皆さんにそういうイメージはないと思うが、イランは中東では断トツに教育熱心な国である。小学生のうちからテストは筆記だけでなく口頭試験もあり、一人ずつ教師の前で歴史や地理、詩の暗唱、言葉の意味を説明させられる。

親も熱心に勉強させるし、授業を完璧に理解していい点を取ることが、高学歴キャリアへの道とされる。授業は非常に厳しく、私も学生時代サボったりふざけていたりすると長い物差しで頭や手をたたかれたものである。

昨今はさすがに都市部の学校ではたたかれないようだが、それでも教師には威厳があり、生徒から恐れられ尊敬される存在だ。親は教師の指導に口を出しすぎると「教育方針に異論があるならば転校しなさい」と校長先生に言われてしまう。

教師にも教育者として高いプライドがあって、部活動の指導や雑務のため夜9時まで学校にいることはあり得ない。遅くとも夕方5時には学校を出て家族と一緒に夕食を取り時間を過ごす。そうでないと明日朝からいい授業はできない。夏休みには2カ月近くバケーションする。休暇もしっかりリラックスして楽しまないと、長い学期を乗り切れない。

教師は熱心に教え、親は子に熱心に勉強させる。この伝統はたとえ親世代が海外に移住しても変わることはないため、国外に住むイラン人も高学歴の人が多い。あるいは、海外で生活する可能性が日本人よりずっと高いためか、どの国に住んでも困らないよう教育に力を入れているとも考えられる。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    F-16はまだか?スウェーデン製グリペン戦闘機の引き渡しも一時停止に

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 5

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 6

    「ポリコレ」ディズニーに猛反発...保守派が制作する…

  • 7

    インドで「性暴力を受けた」、旅行者の告発が相次ぐ.…

  • 8

    「人間の密輸」に手を染める10代がアメリカで急増...…

  • 9

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 10

    「集中力続かない」「ミスが増えた」...メンタル不調…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story