コラム

テストの答えを自動生成──日本もAIカンニングの時代に備えよ

2023年01月25日(水)12時00分
トニー・ラズロ(ジャーナリスト、講師)
AI

AndreyPopov-iStock

<ウェブテスト受験者の不審な動きをAIカメラで察知し、その様子を撮影して採用企業側に送信する仕組みを開発した日本企業も>

替え玉受験。デジタル社会の発展につれ、その手口が進化している。特に最近は、企業が社員の採用に使っているオンライン適性試験における不正が話題だ。本人確認と受験中の監視が十分にできないため、替え玉受験が簡単にできてしまう。

これに手を染める就活生が結構いることを示唆しているのは、昨年起きたある事件。オンライン適性試験を有償で代行していた者が、11月に私電磁的記録不正作出・同供用なる容疑で逮捕された。容疑者は約300人の就活生から依頼を受け、総額400万円近くを得ていたという。

一般に、日本人は真面目で勤勉というイメージがあり、例えばアメリカに比べてもカンニングをする者は多くないと思っていた(アメリカでは2019年にもっと大規模な大学入試不正スキャンダルがあった)。だが残念ながら、この問題は世界共通らしい。

この類いの不正は、さらに悪化しそうだ。応募者を1カ所に集める従来のやり方の入社試験に比べ、ウェブテストは低コストということもあって、多くの企業が今後も使い続けるだろう。その上、日本企業の採用担当者にはさらなる挑戦が待っている。それは人工知能(AI)、特にいま話題を呼んでいるチャットボットだ。チャットとボットを組み合わせた用語で、AIを活用した自動会話プログラムを指す。

その最先端を走る「ChatGPT(チャットGPT)」は、アメリカのAI研究所である「オープンAI」が昨年11月に公開したもので、人間がインターネット上で入力した指示に反応して、コンピュータープログラムや詩、さらにはジョークまで作成してくれる。なかなか便利なツールに思えるが「便利すぎる」と感じたのか、1月3日にニューヨーク市の教育局が市内の公立学校からチャットGPTへのアクセスを全面禁止にした。この決定は大きな波紋を投げかけており、ほかの地域でも学校内での制限が出され始めている。理由の1つに挙げられているのが「カンニング防止」だ。

筆者はこのAIを「好ましからざる者」にする動きを見て、過剰反応だとまずは考えた。でも2、3のチャットボットを自分で使ってみて、教育局の心配が少し理解できた。例えば「源氏物語の分析を」と命令しただけで、それなりに質の高い文を3~4秒で書き上げてくれる。なるほど。受験中であっても、学生がAIに指示さえできれば、代行エッセーが直ちに出来上がり、それを自分のものとして提出できるのだ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マレーシア、対米関税交渉で「レッドライン」は越えず

ビジネス

工作機械受注、6月は0.5%減、9カ月ぶりマイナス

ビジネス

米製薬メルク、英ベローナ買収で合意間近 100億ド

ビジネス

スターバックス中国事業に最大100億ドルの買収提案
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story