最新記事
北欧

フィンランドが「世界一幸福な国」でいられる本当の理由...国民の安全を守る「国防」の現実

2024年6月18日(火)19時43分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)

筆者は今回、フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領にインタビューすることができた。アジアのメディアとしては初のインタビューになる。そこで、すでに世界一幸せな国が、なぜ軍事同盟に加盟するのか、その理由を聞いてみた。

ストゥブ大統領は、「国の安全保障が幸福につながっているなら、NATOに加盟するのは当然だ」と述べる。国民の幸福の鍵の一つに国防意識があるということだが、ストゥブ大統領は「私たちにとって対外的な安全保障政策は実存的なもの」であり、「幸福度はかなり主観的なものだが、NATOの枠組みの中で活動できることに加えて、教育、自然、信頼、福祉、一人当たりのGDPなども要素になる」と話した。

ストゥブ大統領が語るフィンランドの国防意識

インタビューに応じたフィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領

フィンランドは国を守るために「包括的安全保障」という安全保障戦略を提唱している。その戦略では、「リーダーシップ」「世界とEUの活動」「国防能力」「国内治安」「経済、インフラ、供給源の安全」「国民やサービスの機能的能力」「心理的回復力」の7つの要素が鍵となっており、これらがダイアモンドの形を作って相互につながっていくことで国家の安全保障を包括的に守っていくことになる。

フィンランド国防省の安全保障委員会のペッテリ・コルヴァラ事務局長は、「これら7つの機能を、あらゆる状況下において維持する必要がある。つまり、日常業務でこれらを実行し続けることで、すべての潜在的な脅威に備え、必要に応じて脅威に抵抗し、それが現実のものとなったときに脅威から回復できるようにするのも大事だ」と語る。

世界一幸せな国フィンランドの国防意識

フィンランド国防省安全保障委員会のペッテリ・コルヴァラ事務局長

隣国の旧ソビエト連邦(ロシア)の存在

フィンランドの「包括的安全保障」は、もともと隣国の旧ソビエト連邦(ロシア)の存在によって形作られてきた。「私たちの社会全体のモデルは歴史に深く根ざしている。第2次大戦後から冷戦時代にも独立して安全保障を守る準備を続け、それを包括的安全保障に昇華してきた」と、コルヴァラ事務局長は語る。

東欧地域では1991年のソビエト連邦の崩壊で脅威状況が一変した。旧ソ連の国々が独立し、それぞれが欧州の西側諸国との関係で立場を示す必要が生じた。その変化は1917年から独立国だったフィンランドにもおよび、フィンランドは1995年にEU(欧州連合)に加盟。それまで築いてきた独自の安全保障政策から、より欧州諸国と相互に結びついた安全保障にシフトし、2023年にはロシアの軍事活動を受けて、国民の求めに呼応してNATOに加盟した。

「世界一幸せな国」の実像として意外に思うかもしれないが、こうした国防意識は深く社会にも根付き、国民に安心を与える材料となっている。その一例は、シェルターの存在が挙げられる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、ダウ249ドル安 トランプ関税

ワールド

トランプ氏、シカゴへの州兵派遣「権限ある」 知事は

ビジネス

NY外為市場=円と英ポンドに売り、財政懸念背景

ワールド

米軍、カリブ海でベネズエラ船を攻撃 違法薬物積載=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中