最新記事
BOOKS

フィリピンパブ嬢と結婚し、子どもが生まれ、そして知った...フィリピンハーフたちの「母が家にいない」貧困生活

2023年11月24日(金)16時10分
印南敦史(作家、書評家)
アジア人女性

写真はイメージです Gorodenkoff-shutterstock

<日本にいるフィリピン人女性は20万人以上。その子どもたちは...。フィリピンパブの研究者がパブ嬢と結婚するまでを綴った話題作の続編>

かなり前のことになるが、『フィリピンパブ嬢の社会学』(中島弘象・著、新潮新書)という新書をご紹介したことがある。フィリピンパブについて研究する過程でパブ嬢とつきあうようになった著者が、さまざまなハードルを乗り越えて結婚するまでのプロセスを綴ったものだ。

【関連記事】フィリピンパブの研究者がホステスと恋愛したら......

印象的だったのは、とかく重たくなりがちな題材を、軽妙かつユーモラスに扱っていた点である。そのため6年を経た(早い!)今でもはっきりと記憶に残っているのだが、今回ご紹介する『フィリピンパブ嬢の経済学』(中島弘象・著、新潮新書)はその続編ということになる。

なにしろ、新たに家庭を築くことになったのだ。そのため今回は、結婚後も定職に就かずにいた著者の就職、妻の兄夫婦5人家族との共同生活、妻の妊娠、出産、そして子育てに至るストーリーが克明に描かれている。

守るべきものができたせいか著者の意識にも変化があり、それが筆致にも表れているところが注目点のひとつ。だが、今作のもうひとつのポイントは、後半に「フィリピンハーフ」についても言及していることだ。

著者夫婦の間に産まれた子どもは、日本人の父親とフィリピン人の母親を持つ「フィリピンハーフ」ということになる。そんなこともあり、ここでは同じような出自を持つ子どもたちの体験も紹介されており、その現実が浮き彫りにされているのである(なおハーフという呼び方には否定的な意味があるため、近年はミックスやダブルと呼ばれることもあるが、本書ではあえて「ハーフ」という言葉を使用している)。

「みんな泥水を飲んで生きている」

当然ながら、その生活は必ずしも平坦ではない。それは、ここで紹介されている伊藤翔さん(28歳)の話にも明らかだ。愛知県と静岡県を中心に、外国人労働者を派遣する会社に正社員として務める彼もまた、フィリピンハーフとして育った。

「フィリピンハーフの子供はみんな泥水を飲んで生きていると思いますよ」という言葉は重い。


「家はボロボロ。お母さんはいつも家にいない。小学1年生から皿洗いをしてました。ずっと1人でした」
 1990年11月。愛知県瀬戸市で伊藤さんは生まれた。母親は暴力団の手引きの元1986年に違法に来日し、フィリピンパブで働いていたと聞いている。日本人の父親と母はフィリピンパブで出会い、結婚した。(154〜155ページより)

伊藤さんは生後5カ月の頃、フィリピンの祖父母の所に預けられた。言うまでもなく、フィリピンパブで働きながら赤ん坊を育てるのは難しいからだ。しかし病弱だった伊藤さんは1歳のときに熱性けいれんを起こし、再び日本の母親のもとへ戻る。以後は、親子で青森、静岡へと移り住んだ。

母親は昼間は工場、夜はフィリピンパブで働いた。だから「ずっと1人」だったわけだが、小学2年生までは、夜は母が勤めるフィリピンパブの更衣室のような場所で寝ていたという。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国企業、28年までに宇宙旅行ビジネス始動へ

ワールド

焦点:笛吹けど踊らぬ中国の住宅開発融資、不動産不況

ワールド

中国人民銀、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げを発

ワールド

米の低炭素エネルギー投資1兆ドル減、トランプ氏勝利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中