最新記事

イギリス

「停滞した田舎のお荷物」──ジョンソンの暴言の置き土産「保守党問題」

Johnson’s Toxic Legacy

2022年8月24日(水)12時28分
ジェイミー・マクスウェル(スコットランド在住ジャーナリスト)
ジョンソン

ジョンソン(左)はロンドン市長時代からスコットランドを見下すような発言を連発してきた ANDREW MILLIGAN - WPA POOL/GETTY IMAGES

<サッチャー政権に衰退させられた地方都市にとっては、もともと保守党は宿敵。9月5日に決まる新党首が誰であろうと、スコットランドでアンチ保守党感情が払しょくされない理由とは?>

英保守党で、ボリス・ジョンソン英首相の後継者選びが佳境に入っている。リシ・スナク前財務相とリズ・トラス外相の一騎打ちとなっているが、9月5日に結果が発表される党首選でどちらが勝利しても、ウクライナ問題から猛烈なインフレまで、山のような難題を引き継ぐことになるのは間違いない。

なかでも最大の国内問題は、イギリス憲法の未来、つまりイングランドとウェールズ、スコットランド、そして北アイルランドから成る連合王国としてのイギリスの未来だ。

スコットランド行政府(地方政府)のニコラ・スタージョン首相は、ジョンソンが辞意を表明する直前の6月末、独立の是非を住民に改めて問う計画を示した。2014年に行われた住民投票では、イギリスへの残留を希望する住民のほうが多かった。

地方の独立の是非を問う住民投票は、イギリス首相の承認がなければ拘束力がない。そしてジョンソンも、2人の次期党首(つまりは次期首相)候補も、再投票を承認するつもりはないと明言している。このためスタージョンは、首相の承認がなくても住民投票を認めてほしいと、現在、英最高裁に申し立てている。

最高裁が再投票を認めない判決を下した場合、スタージョン率いるスコットランド民族党(SNP)は、次期総選挙で独立を最大の争点に位置付けることにより、事実上の住民投票にするだろう。

だが、この戦略はリスクが高い。まず、独立派が過半数を獲得するのは容易ではない。なにしろ14年に1度敗北しているし、15年の総選挙でSNPが大勝利したときも、スコットランドでの得票率は50%には届かなかった。失敗すれば、独立の夢は当面絶たれ、スタージョンは辞任に追い込まれるかもしれない。

いずれにせよ、保守党の次期党首は、ジョンソンによって一段と高まったスコットランドのアンチ保守党感情に対処しなければならない。

ジョンソン不支持が83%

ブレグジット(イギリスのEU離脱)を問う16年の国民投票で、ジョンソンは離脱派の先頭に立ったが、スコットランドではEU残留支持が離脱支持を24ポイントも上回った。

そもそもジョンソンは、中央から地方への権限移譲を「国境の北側の災難」だと言ったり、ロンドン市長時代には、スコットランドは経済的に停滞した田舎で、ロンドンのお荷物的存在と位置付けたりした。このためスコットランドでは、ジョンソンの不支持率は83%にも上る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ノルウェー、パレスチナ国家承認へ

ビジネス

日経平均は続落、注目イベント控え調整ムード 金利上

ビジネス

英CPI上昇率、4月は前年比2.3%に鈍化 予想は

ビジネス

新発10年国債利回り1.0%に上昇、弱い入札で売り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 7

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中