最新記事

米社会

米Googleマップの中絶施設、4割がニセ医院 反対派が説得拠点へ誘導

2022年6月27日(月)17時30分
青葉やまと

中絶可能な医院をGoogleマップで検索すると、結果の4割をニセ医院が占めた...... (写真がイメージ)GoodLifeStudio-iStock

<特定の州のGoogleマップで中絶医院を探すと、中絶をやめさせるための説得施設へ誘導されるしくみになっている>

アメリカでは妊娠中絶をめぐり、容認派と反対派が激しい論戦を繰り広げている。そんななか、保守色の強い13の州で、中絶を諦めさせるための「ニセ医院」が地図に多数掲載されていることがわかった。

こうした州において、中絶可能な医院をGoogleマップで検索すると、結果の4割をニセ医院が占める。妊娠を知った女性たちが中絶医療を求めて医院を検索すると、その意思に反し、中絶をやめるように説得する拠点へと誘導されるしくみだ。

この事実は米・英NPOのデジタルヘイト対策センターが最近の報告書のなかで指摘し、米民主党議員らが調査・対策に乗り出した。同センターの報告書は特定13州において、「中絶クリニック」または「中絶薬」を検索すると、検索結果の37%をニセ医院が占めると指摘している。

また、地図でなく通常のGoogle検索についても、検索結果の11%をニセ医院が占めるという。検索結果よりも上位に表示される広告は、さらに多い28%がニセ医院による出稿となっている。

ニセ医院が横行しているこれら13州はテキサス州やユタ州など、すでに中絶の権利を実質的に禁止あるいは厳しく制限する法律が制定され発効を待っている、保守色の強い州だ。これらの州における中絶禁止法は調査時点では効力をもっていないが、最高裁が従来の判断を覆した時点で自動的に発効する、いわゆる「トリガー法」の状態であった。

調査後の6月24日、米最高裁は1973年の「ロー対ウェイド事件」での判断を覆し、中絶の権利は憲法で保障されないとの判断を示した。今後、中絶の是非は各州の州法に委ねられる。これに伴い、トリガー法を用意していた州の多くでは中絶が違法となった。ただし、リベラル色の強い周辺州の一部は中絶希望者の受け入れ姿勢を打ち出しており、中絶是非の議論は引き続き大きなテーマとなりそうだ。

「うわべだけの医院」を開き、中絶をやめるよう説得活動

問題となっているニセ医院について、米政治専門紙の『ヒル』は、中絶反対派が運営する「妊娠資料センター」または「危機的妊娠センター」と呼ばれる施設だと説明している。あたかも緊急的に妊娠中絶を受けられるような印象を抱かせることで妊婦たちを集め、その実、中絶の取りやめを促し、出産して養子に出すなど代替案を持ちかける場として利用されているという。

米ワシントン・ポスト紙はこうした「ニセの中絶医院」が、実際には「中絶を行うことはない」と解説している。ニセ医院に対し、「妊娠検査や超音波診断、性病検査などを提供することで、医療施設という体裁をうわべだけ取り繕っている」などとの批判が寄せられていた。

また、こうした拠点のなかには誤った情報を吹聴し、中絶がさも危険な選択肢であるように誤認させるケースもあるという。デジタルヘイト対策センターの報告書によると一部のニセ医院は、一度中絶すると不妊になる、あるいは中絶後に自殺衝動に駆られる人が非常に多いなどの虚偽の情報を流している。

この状態は、議員たちも問題視するようになった。米民主党の上院・下院議員ら計21名は、Google親会社のAlphabet社CEOに対して書簡を送付し、調査と対策を要請した。議員らは書簡を通じ、「Googleは、『中絶医院』や『中絶薬』を探しているユーザーの検索結果に、中絶に反対するニセの医院や危機的妊娠センターを表示すべきではありません。引き続きGoogleがこうした誤解を招く検索結果を表示する必要がある場合、最低でも検索結果には適切なラベル(警告)が表示されるべきです」と求めている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中