最新記事

米企業

今も自然界と人体に「発がん物質」を残す、モンサント社とは何だったのか

What Was Monsanto?

2022年1月20日(木)18時48分
トム・フィルポット(マザー・ジョーンズ誌記者)
モンサントの工場

モンサントのフランス工場(19年) STEPHANE MAHEーREUTERS

<化学会社からアグリビジネスに見事脱皮した米企業モンサントの、変わらない「本質」を徹底的に暴く新著『シードビジネス』>

アメリカの代表的企業の1つだった総合化学メーカーのモンサントが、ドイツの医療・農薬大手バイエルに買収されて、歴史の舞台を降りたのは2018年のこと。これにより、100年以上続いたブランドは消滅した。

だが、その除草剤製品に含まれる(とされる)発癌物質は、自然環境や食品、そしておそらく私たちの体内に残っている。また、除草剤に耐性のある遺伝子組み換え種子は、現在も幅広い作物に使用され、家畜の餌となり、甘味料や増粘剤として幅広い加工食品に使われている。

いったいモンサントとは何だったのか。その商品は、どのようにして現代の食料システムの根幹を成すようになり、バイエルの下で存続し、私たちの命と自然資源に影響を与え続けるのか。

オハイオ州立大学のバートウ・エルモア准教授の新著『シードマネー――モンサントの過去と私たちの食卓の未来』(未邦訳)は、こうした疑問に答えてくれる重要文献だ。平易な言葉で語られるモンサントの歴史を読むと、そのブランドが消えてもなお、同社が私たちの日常に影響を与え続けることが分かる。

全ては20世紀初めに、ジョン・クイーニーという男がミズーリ州で起業したことから始まる。医薬品のセールスマンだった彼は、誕生まもない有機合成化学の分野で、(皮肉にも)バイエルなどドイツ企業の優位を打ち破る会社をつくりたいと考えた。

クイーニーの妻の旧姓にちなんでモンサントと名付けられた会社は、人工甘味料サッカリンとカフェインをコカ・コーラに販売して急成長を遂げた。さらに工業用化学品の分野にも進出した。

エルモアによれば、転機が訪れたのは1997年だ。モンサントの化成事業は、数十年にわたり莫大な利益をもたらしていたが、環境汚染問題で訴訟を起こされたり、原油価格の急騰で利益が薄くなるなど、次第に経営の重荷になっていった。

バイオ企業として再出発したが

そこで経営幹部は、新会社ソルーシアを立ち上げて化成事業を分離することにした。極めて有害で環境残留性の高い化合物ポリ塩化ビフェニル(PCB)や、米軍がベトナム戦争で使用した枯葉剤の製造施設も、モンサント本体から切り離された。

モンサントは「この分離会社に10億ドルの債務と大規模な環境責任を押し付けた」と、エルモアは書いている。一方、モンサント本体は、「原材料費の変動に左右されにくい」上に、「強力な専有権」を確保できる商品を探した結果、遺伝子組み換え作物にたどり着いた。

経営幹部は、石炭や石油など化石燃料でできた有毒な化成品で大儲けした「古いモンサント」と、最先端のバイオ技術で世界の腹を満たす「新しいモンサント」を断固区別しようとした。だが、その境界線は最初から曖昧だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国人民銀、期間7日のリバースレポ金利据え置き 金

ワールド

EUのエネルギー輸入廃止加速計画の影響ない=ロシア

ワールド

米、IMFナンバー2に財務省のカッツ首席補佐官を推

ビジネス

ミランFRB理事の反対票、注目集めるもFOMC結果
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中