最新記事

ドイツ

100年前に虐殺を行ったと認めたドイツ...それでも「賠償」拒否の理由は?

2021年6月2日(水)11時42分
エリオット・ハノン
ジェノサイドを認める会見を行ったマース独外相

ジェノサイドを認める会見を行ったマース外相 Tobias Schwarz/Pool via REUTERS

<植民地統治していた当時のナミビアでの集団虐殺を正式に認めたが、これで歴史問題が清算できるかは不透明>

ドイツ政府は5月28日、20世紀初頭に植民地統治下のナミビアで行った残虐行為を正式にジェノサイド(集団虐殺)と認めると発表した。ドイツ帝国に殺害された現地のヘレロ人とナマ人数万人は、当時の人口の75%以上とも言われている。

この行為の扱いをめぐり、両国政府は6年間にわたって交渉を続けてきた。ドイツ政府は今回の認定に加え、被害地域の開発支援のための基金を設立すると発表。マース独外相は声明でこう述べた。「われわれは現代の視点から、これらの出来事を正式にジェノサイドと呼ぶ。犠牲者の計り知れない苦しみを認めた証しとして、11億ユーロ(約1500億円)の復興開発プログラムでナミビアと犠牲者の子孫を支援したい」

西欧列強が数十年にわたりアフリカ全土で繰り広げた殺戮と収奪の影響は今も残っている。近年、旧宗主国はより積極的かつ正確に植民地支配の実態を認め、責任を引き受けるべきだという声が高まっているが、今回の発表もその流れに沿ったものだ。

だが全体的にみれば、旧宗主国の反応は鈍い。逆に「歴史の忘却」とも言うべき植民地時代への懐古主義が再び頭をもたげてきた国もある。例えばイギリスのジョンソン首相は、しばしば大英帝国による旧植民地の被害を矮小化して語っている。

一方、フランスのマクロン大統領は5月27日、訪問先の旧植民地ルワンダで行った演説で、1994年に80万人の死者を出したフツ人によるツチ人大虐殺について、フランスにも一定の責任があることを認めた。

1884~1915年にナミビアを植民地化していたドイツが土地の収奪に抵抗した数万人のヘレロ人とナマ人を殺害した事実を認めたことは、さらに一歩進んだ動きだ。当時この地域を統治していたドイツ軍のトップは、両民族の根絶を主張し、虐殺を生き延びた人々は砂漠の強制収容所に送られた。

この発表に対するナミビア側の反応は控えめなものだった。同国政府報道官は、「ジェノサイドが行われた事実をドイツ側が受け入れたことは、正しい方向への第一歩」だと指摘した。

犠牲者の子孫たちがその先に求めているのは、賠償金の支払いだ。ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の犠牲者に比べ、自分たちに対するドイツ政府の謝罪と経済的補償は不十分だと彼らは主張する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米メルク、通期業績予想を上方修正 抗がん剤キイト

ビジネス

赤沢財務副大臣「特にコメントできることない」、日銀

ワールド

中国、有人宇宙船打ち上げ 飛行士3人が半年滞在へ

ビジネス

基調的な物価上昇率、徐々に高まり 見通し期間後半は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中