zzzzz

最新記事

新型コロナウイルス

コロナ落第生の日本、デジタル行政改革は「中国化」へ向かう

BIG BROTHER VS COVID

2021年5月6日(木)18時45分
高口康太(ジャーナリスト)

抑止的手段をどう組み込むか

一方で、権力の暴走にもつながりかねないとの危惧もある。この点でも、中国は「先進国」だ。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは2019年に「新疆で稼働する大規模な監視システム」と題した報告書を発表した。

海外在住の親族はいないか、ファイル交換ソフトを使用していないか、出国歴はあるかといった複数のデータを統合することで、「危険思想予備軍」を選び出し、予防的に拘束していると指摘した。既に100万人を超えるウイグル人住民が収容施設に拘束されるなど、デジタル技術が人権侵害のツールとして活用されている。

データの統合と活用にメリットがあるとしても、権力の暴走というデメリットをいかに防ぐのかが問われている。

「データの統合を認めつつも、問題がある手法を取っていないかを事後的にチェックしていく制度をセットにする必要がある」と、大屋教授は指摘する。

データの統合ができないような仕組みづくりによって、悪用できないようにするのがこれまでの日本だった(善用もできなかったが)。今後は監視の目を光らせながらも運用を認めていく形へと、政府と社会の関係性を変えなければならないと説く。

政府に権力を与えた場合でも、過剰な人権の制限や国家の暴走を許さないよう、事後的にコントロールできるか。この点について日本人の多くは自信を持っていないようだ。

昨年4月、ギャラップ・インターナショナル・アソシエーションが世界18カ国を対象に実施した国際世論調査がある。

「ウイルスの拡散防止に役立つならば、自分の人権をある程度犠牲にしてもかまわない」という設問に、「そう思う」と回答した比率で、日本は最低の40%。先進民主主義国でもアメリカは68%、ドイツは89%と大きく懸け離れている。

「個人情報が取られるのは『なんとなく』怖いという不安が忌避感につながっている」

筆者と共著で『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、2019年)を執筆した神戸大学の梶谷懐教授は、茫漠とした不安では監視社会化の歯止めとしては脆弱だと危惧する。

そもそも、先進国で監視社会化抑止のよりどころとなっていた人権やプライバシーといった理念は、生存が保障された状況でより良き社会を目指すための主張であり、コロナのような命そのものが脅かされる状況では分が悪い。

梶谷教授は「中国の成功を見れば、日本を含む西側諸国の市民が『民主的』に監視社会化を望むようになるまで、あと一歩だろう」と指摘。データの収集と統合は不可避の趨勢だとしても、同時に、市民の積極的な関与などの抑止的手段を組み込む必要があると警告する。

日本のデジタル行政改革は雪崩を打ったかのように進んでいる。そのなかで、中国型の監視社会とは異なる道を歩むために何をなすべきかが問われている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「精密」特攻...戦車の「弱点」を正確に撃破

  • 3

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...痛すぎる教訓とは?

  • 4

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 5

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 6

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 7

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 8

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「同性婚を認めると結婚制度が壊れる」は嘘、なんと…

  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 4

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 5

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中