最新記事

フードテック

培養肉は次のパンデミックを防ぐのだろうか

2021年1月19日(火)18時00分
松岡由希子

シンガポールで販売が承認された培養肉...... Eat Just

<パンデミックを引き起こす感染症の多くは動物由来のものだ。これから成長が見込まれる培養肉が、パンデミックを防ぐことできるだろうか...... >

シンガポール食品庁(SFA)は、2020年12月1日、可食部の細胞を人工的に組織培養した「培養肉」の販売を世界で初めて承認

12月21日には、シンガポールの会員制レストラン「1880」で米スタートアップ企業イート・ジャストが製造する培養鶏肉を使ったチキンナゲットが一般の消費者に初めて提供された。

培養肉は、環境負荷を大幅に軽減できるのが利点。さらに......

培養肉の生産は、動物を屠殺する必要がなく、食用動物を肥育するよりも環境負荷を大幅に軽減できるのが利点だ。

英オックスフォード大学と蘭アムステルダム大学の研究チームが2011年6月に発表した研究論文によると、従来の食肉生産に比べて、土地利用を99%、水消費量を96%、エネルギー消費量を45%下げ、温室効果ガスの排出量を96%抑えられるという。

動物からヒトへ、ヒトから動物へと伝播でき、同一の病原体によってヒトとそれ以外の脊椎動物が罹患する「人獣共通感染症」は、しばしば家畜が発生源となっている。2009年に世界的に流行した新型インフルエンザは、ブタ間で流行していた豚インフルエンザウイルスが発生源とみられ、中東呼吸器症候群(MERS)は、ヒトコブラクダが保有宿主(感染源動物)だ。

2020年初から世界各国で猛威を振るう新型コロナウイルスの発生源は現時点で特定されていないが、新型コロナウイルスに感染した家畜のミンクがスペインやオランダで見つかったほか、11月には、デンマークで、家畜のミンクからヒトに感染した新型コロナウイルスの変異株が確認されている。

国際家畜研究所(ILRI)で人獣共通感染症の研究を主導する英グリニッジ大学のダリア・グレース教授は、独メディア「ドイチェ・ヴェレ」の取材に対し、「次のパンデミックは『もし起こったら』ではなく『いつ起こるか』の問題だ。4ヶ月ごとに新たな病気が見つかっており、そのペースは加速している。これらの多くは動物由来のものだ」と警鐘を鳴らす。

食肉生産と消費拡大によって、パンデミックを引き起こすおそれがある

また、独ボンを本部とする政府間組織IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)が2020年10月に発表した報告書では、「グローバル化した食肉生産とその消費のように、人々の消費活動とグローバル化した農業の拡大や貿易によってパンデミックを引き起こすおそれがある」と指摘し、食肉消費量の減少につながる税制を創設するよう求めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=

ビジネス

ユーロ圏銀行融資、3月も低調 家計向けは10年ぶり

ビジネス

英アングロ、BHPの買収提案拒否 「事業価値を過小
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中