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20年前、なぜ日本は「黒船CEO」ゴーンを求めたのか

Black Ship CEOs

2020年1月29日(水)18時50分
千葉香代子、大橋希、井口景子(東京)、李炳宗(ソウル)、クリストファー・スラビック(ロンドン)

ニューズウィーク日本版2002年8月7日号の表紙を飾ったカルロス・ゴーン日産社長(当時)

<外国人社長は、日本経済が再生に向かうために必要な「ガイアツ」だったのか? 2002年の本誌の特集から、「黒船CEO」カルロス・ゴーンの功罪を探る>

2002年、本誌は「黒船CEO――外国人社長は日本企業をここまで変えた」(02年8月7日号)という特集を掲載した。表紙を飾ったのは、2000年に日産自動車の社長に就任したカルロス・ゴーン。当時の日本では、自動車メーカーのほか、金融や通信などでも経営陣に外国人を迎える例が増えていた。

「グローバル化の加速で次々と誕生する外個人社長。その聖域なき改革が『鎖国』経済をめざめさせる」と、本誌は書いた。当時、「黒船CEO」たちを迎えた日本企業に何が起きていたのか。社長就任から20年後、レバノンに逃亡し、自身の逮捕を旧日本軍による「真珠湾攻撃」になぞらえたゴーンの功罪を探るべく、18年前の特集記事を再掲載する。

◇ ◇ ◇

ルールは1つ、聖域もタブーも設けない――日本中が注目した記者会見で、容赦ないリストラの実行を宣言するカルロス・ゴーン。その姿に、黒船を率いて徳川幕府に開国を迫った提督ペリーや、敗戦後の日本を占領するため乗り込んできたマッカーサーをだぶらせた日本人もいたにちがいない。

ルノーから日産自動車に送り込まれたゴーンが「日産リバイバルプラン」を発表したのは99年10月のこと。5工場の閉鎖や系列企業の切り捨て、従業員2万1000人の削減というリストラ計画は、社内外に大きな衝撃を与えた。

その年の春に日産がルノーの傘下に入り、外国人が経営首脳になると知ったとき、「とうとう負け組になったと思った」と、日産で内装設計を担当する下地克英(31)は言う。「どんどん人が減らされて、会社がなくなるのではないかと思った。外資イコール解体というイメージがあったから」

それから3年。日産はゴーンが約束したとおり、着実に復活を果たしつつあるようにみえる。

2000年6月に社長に就任したゴーンの指揮の下、日産は実力主義による人材の登用や購買費の削減を進め、2002年3月期には過去最高益を更新。7月30日には、旧経営陣の下で絶滅の危機に瀕していた伝説のスポーツカー、フェアレディZの13年ぶりの新モデルがついにベールを脱いだ。

外国人社長の下で再生をめざす自動車メーカーは、日産だけではない。マツダは96年以来、筆頭株主のフォードから派遣された外国人が社長を務めている。2000年にダイムラークライスラーの傘下に入った三菱自動車では、副社長を務めていたロルフ・エクロートが6月に社長に昇格した。

外国人社長を迎えるメーカーが多いのは、日本の自動車産業が歴史的な転換期に直面している表れだ。もはやどの企業も、世界的な再編の波と無縁ではいられない。バブル期の過剰投資などで経営難に陥った企業は、外国資本の助けに頼らざるをえない。

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