最新記事

災害

「武蔵小杉ざまあ」「ホームレス受け入れ拒否」に見る深刻な日本社会の分断

2019年10月25日(金)17時00分
真鍋 厚(評論家、著述家) ※東洋経済オンラインより転載

「地震、爆撃、大嵐などの直後には緊迫した状況の中で誰もが利他的になり、自身や身内のみならず隣人や見も知らぬ人々に対してさえ、まず思いやりを示す」――そして、このような一時的な現象を「災害ユートピア」と名付けた。そこには、共同性そのものが成り立ちにくくなっている現状への批判が込められていた。


近年の歴史は民営化の歴史だとも読めるが、それは経済のみならず、社会の民営化でもあった。市場戦略とマスコミが人々の想像力を私生活や私的な満足に振り向け、市民は消費者と定義し直され、社会的なものへの参加が低下した結果、共同体や個々人のもつ政治力は弱まり、民衆の感情や満足を表す言葉さえ消えつつある。

"フリーアソシエーション(自由に誰とでも係わり合いになれる権利や能力)"とはよく言ったもので、それでは深い人間関係はできない。代わりにわたしたちはマスコミや宣伝により、互いを怖がり、社会生活を危険で面倒なものだと見なし、安全が確保された場所に住んで、電子機器でコミュニケーションを取り、情報を人からではなくマスコミから得るよううながされる。

だが、災害が起きると、人々は集まる。この集まりを暴徒と見なして恐れる人もいるが、多くの人はパラダイスに近い市民社会の体験としていとおしく思う。(『災害ユートピア なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか』高月園子訳、亜紀書房)

避難所のホームレス受け入れ拒否の波紋

これはいわば非常事態をきっかけにして、個人の自主性や社会的な役割が試される場であり、実際に「潜在能力」を発揮して救助や支援に奔走する人々が出てくる。

だが、ここで誤解してはならないのは、「地域のつながりらしきもの」が辛うじて残っていることが前提条件になることだ。つまり、普段から没交渉で住民同士が居住地をただ同じくしているだけでは「災害ユートピア」は立ち上がりにくいのである。

東京都台東区が避難所を訪れたホームレスの男性2人に対し、その受け入れを拒否したことがその後のネット上での"賛否"を含めて波紋を呼んでいるが、このような議論が湧き起こること自体が「社会の分断」が加速度的に進んでいることを如実に示している。もはや支援の手を差し伸べ、助けるべき「同じ人」としては映ってはいないのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

為替円安、行き過ぎた動きには「ならすこと必要」=鈴

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中