最新記事

事件

運動期間中20人以上が殺された! 立候補は命がけというフィリピンの選挙

2018年5月8日(火)20時16分
大塚智彦(PanAsiaNews)


殺し屋15人を警察が逮捕

5月5日、ミンダナオ島西部の都市サンボアガで武装した集団を警察の特殊部隊が陸軍の支援を受けて摘発。銃撃戦の末15人を逮捕した。その後の調べで彼らは周辺の町ソミノットやオロキエタで最近発生している一連の銃撃事件に関与した疑いのあるプロの殺し屋集団であることが判明したという。逮捕と同時に15人が所持していた自動拳銃などの武器も押収された。

15人の中には元市長や元バンガライ議長なども含まれており、バンガライ選挙に絡んだ政敵や立候補関係者を狙った銃撃事件、殺害事件にも関与していた容疑で取り調べを受けているという。

日本大使館も在留邦人に注意喚起

フィリピンではバンガライ選挙で殺人事件が起きるのは「恒例」ともいわれ、前回2013年にも候補者やその関係者の射殺が相次いだ。

このためフィリピン政府は実質的な選挙期間として4月14日から投票の完全集計が終了する予定の5月21日までの選挙期間中、一般市民が銃火器を携行することを禁止する措置を講じている。しかし、実態は銃火器の携行、使用が野放し状態であることは、頻発する銃撃、射殺事件が証明している。

国政選挙、地方選挙と同様、バンガライ選挙でも地方の実力者が養っている「私兵組織(PAG=Personal Army Gang)」が、対立候補や政敵、あるいは報道陣に向けて「沈黙を強要する銃弾」を発射するケースが多いという。そしてPGAによる犯行に関しては往々にして実行犯あるいはPGAのスポンサーまで司法の裁きを受けさせることが困難なのが実情という。その理由として、司法関係者の生命すら脅かす存在だからといわれている。

在フィリピン日本大使館は、こうした過去の経緯や今回の選挙でもすでに多数の死者が出ている事態を重視し、5月2日に在留邦人や渡航予定者に向けた「注意喚起」を出した。

「今後不測の事態の発生も懸念されることから、最新情報の入手に努め、安全確保に十分注意を払ってください」という趣旨の内容となっている。

「国民が参政権を漏れなく行使できるように」と、投票日の5月14日を大統領布告で特別休日にしたフィリピン。投票結果が判明するまで文字通り命がけで選挙戦を戦う立候補者たちの戦々恐々とした日々は続く。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIの基盤モ

ワールド

米がイスラエルに供給した爆弾、ガザ市民殺害に使われ

ビジネス

英アーム、通期売上高見通しが予想下回る 株価急落

ビジネス

PIMCO、金融緩和効果期待できる米国外の先進国債
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中