最新記事

エネルギー

モンゴル国境が大渋滞 北朝鮮産を穴埋めする中国向け石炭ラッシュ

2017年11月21日(火)21時00分

モンゴル外務省は、そもそも通関の遅れの最初の原因となったのは、モンゴル人の多くが長期休暇を取る夏の祭典「ナーダム」だったと説明する。

また、石炭の積荷に生肉や銃がまぎれているケースがあるとの中国側からの抗議を受け、モンゴル側でも積荷の検査により時間をかけるようになったと、ダワースレン氏は話す。

運転手が生きた狼を中国側に持ちこもうとしたことすらあったという。

「もちろん、誰も長い列になど並びたくない」と、ダワースレン氏は言う。同氏は、1日の通関処理能力を、現在のトラック700台から3000台に増加させれば、問題はすぐに解消できるとした上で、「運転手のためにも国のためにも良くない状況だ。解決に向けて取り組んでいる」と語った。

トラックの渋滞がない時でも、国境に行くのは恐ろしい試練だ。猛スピードの車が片側1車線の道を行き交っている。街路灯がなく、飲酒運転が横行しているため、夜はさらに危険が増すと運転手たちは語る。

「とても危険だ。毎日、道路脇でひっくり返った車をみかける」と、あるドライバーは語った。

ロイターの記者が最近この道を通った時にも、ひっくり返ったトラックや、正面衝突を起こしてつぶれた車がうち捨てられているのを何台も見かけた。

「信じられないものを見ることがある」と、運転手のドゥンシグ・バーサンジャブさんは、渋滞で動かない車列の脇に立って言った。「よそから来る人は、これまで見たもののなかで最悪だと思うだろう。でも私たちはいつも見ているので、何も感じなくなった」

炭鉱運営会社は、長期的な国境のボトルネックの解消策は、炭鉱とガシュンシュハイトを結ぶ新たな鉄道だと言う。

モンゴルは、200キロ以上に及ぶレールの土台部分をすでに築いているが、その後予算不足で計画は中断してしまった。

あまりにも長い間、モンゴルの厳しい自然環境に土台の基礎部分が放置されてきたため、計画を最初からやり直す必要があると、地元の当局者はみている。

鉄道計画の命運がどうなろうと、ゴビ砂漠から中国に向け、少しずつ進んでは止まる渋滞の中にいる運転手たちは、運転し続けるしかない。IMFの支援計画の影響で緊縮財政を敷くこの国では、他に雇用の機会は多くない。

「これは極めて危険で、命を脅かす仕事だ。でも、他に選択肢がない」と、トラックから降りてきた運転手が言った。ちょうど太陽が、ピクリとも動かない車の列の向こうに沈むところだった。

「他にすることは何もない」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)



Terrence Edwards

[ハンボグド(モンゴル) 14日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2017トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、対中関税引き下げの可能性示唆 週末の米

ビジネス

貿易戦争の長期化、カナダ経済と金融安定性への脅威=

ビジネス

米タペストリー、業績予想を上方修正 主力「コーチ」

ビジネス

米労働生産性、第1四半期速報値は0.8%低下 約3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 8
    日本の「治安神話」崩壊...犯罪増加と「生き甲斐」ブ…
  • 9
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中