最新記事

ドイツ政治

メルケルの「苦い勝利」はEUの敗北

2017年10月7日(土)11時00分
エリック・ジョーンズ(ジョンズ・ホプキンス大学ヨーロッパ研究教授)、マティアス・マティース(同助教)

メルケル率いる与党の得票率は33%と過去最低レベル Kai Phaffenbach-REUTERS

<先月の議会選挙でメルケルの4期目続投は確実になったが、反EUの極右政党の躍進に押されて独仏協調のEU改革は困難に>

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は4期目の続投を確実にしたが、その表情は冴えない。

9月24日に実施された連邦議会選挙(下院選)でメルケル率いる与党・キリスト教民主・社会同盟(CDU・CDS)は第1党の座を維持したものの、得票率は33%で過去最低レベル。呉越同舟のゴタゴタを覚悟で新連立を組むか、前例のない少数与党政権を発足させるしかない。

しかも今回の選挙では極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が国政進出を果たし、議会の第3党に躍り出た。

一方で中道左派の社会民主党(SPD)は惨敗を喫し、連立から離脱。メルケルは企業寄りの第4党・自由民主党(FDP)、第6党でFDPとは反りが合わない緑の党と大連立を組む可能性が高い。

今回の結果と対照的なのは、今年4〜5月に行われたフランスの大統領選挙と6月に行われた国民議会選挙(下院選)だ。エマニュエル・マクロンは大統領選の決選投票でほぼ3分の2の票を獲得。下院選では彼が率いる「前進する共和国(REM)」が、共闘を組む政党と合わせて国民議会の6割強の議席を獲得した。

マクロンの圧勝を受けて、メディアは一斉に「欧州の民主主義を脅かすポピュリズム旋風に歯止めがかかった」と歓喜の声を上げた。欧州統合を引っ張ってきたドイツとフランスが再び「1つの欧州」の旗振り役となり、延び延びになっていた改革を主導して、EUの経済的・政治的基盤を強化する――そんな期待も膨らんだ。

だがメルケルの「苦い勝利」で欧州の民主主義とEUの統合推進の行方は楽観視できなくなった。現状ではメルケルの続投はむしろEUの結束にマイナスになりかねない。

ドイツの今回の選挙結果を見て、フランスに続きポピュリズム勢力を抑え込めたと思うのは誤りだ。独仏の選挙制度は異なるから単純な比較はできないが、試しにドイツの今回の議会選とフランスの議会選の第1回投票を比べてみると、結果はほとんど変わらない。

フランスもドイツも与党は3分の1前後の票を獲得。フランスの極右政党・国民戦線もドイツのAfDも得票率は13%前後だった。フランスの極左の得票率は14%前後。ドイツの極左政党の得票率は9%前後にすぎなかったが、緑の党には中道に加え極左グループが含まれているから、極右と極左のポピュリズム勢力はドイツでもフランスでも同程度の力を持つとみていい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、政府閉鎖の

ワールド

ハマスに米ガザ和平案の受け入れ促す、カタール・トル

ワールド

米のウクライナへのトマホーク供与の公算小=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中