最新記事

EU

欧州が恐れる「融和のメルケル時代」終わりの始まり

2017年9月29日(金)13時48分

9月26日、欧州各国は、ドイツの総選挙結果を受けて、リスク回避志向で内向きのドイツが復活するのではないかと危惧している。写真はメルケル独首相。27日、ベルリンで撮影(2017年 ロイター/Fabrizio Bensch)

2008年、グローバル金融危機に対するドイツの慎重な対応に腹を立てた当時のフランス大統領サルコジ氏は、メルケル首相に食ってかかった。

「フランスが行動しているのに、ドイツはどう行動するかをただ考えているだけだ」とサルコジ氏は毒づいた。

それから10年近くたった今、欧州各国は、リスク回避志向で内向きのドイツが復活するのではないかと危惧している。24日に実施されたドイツ連邦議会(下院)選挙によってメルケル首相の立場が弱体化し、極右政党による連邦議会への初進出を許したからだ。

「欧州各国の首都にいる者は皆、心配そうに見つめている」と語るのは、ロンドンのシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)のロビン・ニブレット所長だ。「メルケル首相が融和的な立場をとり、欧州の前進に向けてリーダーシップを担う余裕は乏しくなった」

2008年当時は、急速に進展する金融危機の複雑さと、大規模な景気刺激策に対する反感が、メルケル首相を慎重にさせた。今回は国内の政治情勢がその引き金になりそうだ。

フランスのマクロン新大統領が、欧州再編に向けてメルケル首相に協力を呼びかけ、英国とのブレグジット交渉が修羅場を迎えるなか、同首相は今後数カ月にわたり、行き詰る可能性もある困難な連立交渉に直面することになる。

企業寄りの自由民主党(FDP)と、環境保護主義を掲げる緑の党との3党連立を、メルケル首相がまとめ上げることができたとしても(当面その選択肢しかないわけだが)、現政権に比べて安定性の低い構造になることはほぼ確実だろう。

この新たな連立政権は、国政の場で現在よりも対決色の強い野党と対峙することになる。その筆頭は、険悪な雰囲気で連立から離脱する社会民主党(SPD)、そして半世紀以上ぶりにドイツの国政に戻ってきた極右政党である「ドイツのための選択肢」(AfD)だ。

メルケル首相率いる保守派の得票率39.2%は1949年以来の最低水準であり、その後退とAfDの台頭は、同首相が2015年、ドイツに数十万人の難民を受け入れることを決断したことの結果である。

この決断は党内におけるメルケル氏の立場を脆弱化し、バイエルン州における友党、キリスト教社会同盟(CSU)を動揺させた。24日の連邦議会(下院)選挙では、CSU支持票がAfDに流れた。

首相にとって、CSUが、FDPや緑の党以上に気難しい連立相手になる可能性が高い。

「極右政党が連邦議会に進出したことに対する責任は、メルケル首相にある。これは言わば同首相に対する告発だ。明らかに、彼女の立場は弱まるだろう」とニブレット所長は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米コロンビア大、反イスラエルデモ参加者が建物占拠 

ビジネス

米雇用コスト、第1四半期1.2%上昇 予想上回る

ワールド

ファタハとハマスが北京で会合、中国が仲介 米は歓迎

ビジネス

米マクドナルド、四半期利益が2年ぶり予想割れ 不買
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 9

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 10

    日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退──元IM…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中