最新記事

欧州

4選狙う独メルケル首相 難民巡る「どん底」からの復活劇

2017年9月20日(水)18時00分

メルケル首相の難民受け入れ決定から1年、ドイツ国内ではイスラム系武装勢力による小規模な攻撃が相次ぎ、首相の支持率は30ポイント急降下して45%に達し、4選目の可能性も疑問視された。

だが現在、ドイツ国民の63%が、メルケル首相はよくやっていると評価しており、ベルテルスマン財団が今月行った調査によれば、59%がドイツは正しい道を進んでいると回答している。

「長く、困難な道だった」と首相側近は言う。「だが、選挙戦において、もはや難民問題がメルケル首相にとってマイナスにならないところまで、なんとかこぎつけた」

「他に選択肢はない」

海外で起きた出来事もメルケル首相に追い風となった。

たとえば昨年、英国が欧州(EU)連合からの離脱を決めた国民投票、そして米大統領選におけるドナルド・トランプ氏の勝利は、いずれも「安定の擁護者」としてのメルケル氏の魅力を高める結果となった。

2016年初頭にマケドニアがギリシャとの国境の閉鎖を決めたことで難民の流入は食い止められ、ドイツの苦境はは緩和された。また有権者の反移民感情の引き金になりかねない、イスラム系武装勢力による大規模なテロ攻撃もドイツでは発生しなかった。

だが同じく、決定的に重要だったのは、メルケル首相には、ドイツ人がどう行動するかを理解する才覚があったことだ。

メルケル氏が公衆の前に姿を現す場合、反移民を主張する人々に出迎えられることが多い。彼らは、口笛や「メルケルは去れ」などのシュプレヒコールによって、首相の演説をかき消そうとする。

スタインヒュードでは、1人の女性が、指でひし型を作るメルケル首相お得意のジェスチャーと、中央部に血まみれの弾痕のあるドイツ国旗を重ね合わせたプラカードを掲げていた。そこには「あなたに恐怖と死、混乱を与える」と書かれていた。

だが、数十名程度の抗議者は、メルケル首相のメッセージに拍手喝采で応える支持者に比べれば圧倒的に少数派だった。

「難民危機について、他に対応策があったかどうかは、自信がない。難民たちは、どこかの地に向かわなければならなかった」と近隣のフロートーで下水処理工場を営むウィリー・コルデスさん(70歳)は話す。「他の誰かなら、もっとうまく対応できたとは思えない」

選挙戦においてメルケル首相にとって好都合だったのは、ライバル候補のマルティン・シュルツ氏率いる中道左派の社会民主党(SPD)を含め、既成政党の多くが首相の国境開放政策を支持しているという事実だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

TSMC、第2四半期AI需要で過去最高益 関税を警

ワールド

ウクライナ議会、スビリデンコ氏を新首相に選出 39

ワールド

エプスタイン事件、「トランプ政権が情報隠ぺい」7割

ワールド

ロシア、必要なら西側への「予防的攻撃」開始も=前大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 10
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中