最新記事

欧州

4選狙う独メルケル首相 難民巡る「どん底」からの復活劇

2017年9月20日(水)18時00分

9月10日、難民申請者に2年前国境を開放したメルケル独首相は、その後自身の支持率が急降下するなかで、これまでの政治キャリアにおいて「どん底」とも言える状況からはい上がってきた。写真は12日、独ベルリンで同首相の選挙ポスターを貼る男性(2017年 ロイター/Fabrizio Bensch)

メルケル首相は、ドイツ北部で最近行った選挙演説の終盤で、2015年の欧州難民危機に触れ、二重の意味をはらんだ元気づけるメッセージを聴衆に送った。

漁村スタインヒュードに集まった1000人を超える聴衆に対して、中東の戦火や迫害から逃れてきた数十万人の難民申請者に対して暖かい歓迎を示したことを、ドイツ国民は誇りに思うべきだ、とメルケル首相は語りかけた。

そこで語調を変え、「2015年に起きたことの再現はあり得ないし、それを許してはならない」と断言した。

今月24日実施されるドイツ連邦議会(下院)選挙において、4選が有望視されるメルケル首相は、このフレーズを各地の街頭演説で繰り返してきた。

2年前、メルケル首相は「迫りくる人道上の大災害」を防ぐため、難民申請者に国境を開放した。その結果、自身の支持率が急降下するなかで、同首相はこれまでの政治キャリアにおいて「どん底」とも言える状況からはい上がってきた。

この復活劇には多くの要因がある。だがそのなかでも特に重要だったのは、2015年の国境開放に対する賛否はともかく、難民危機について、ドイツ国民の多くが支持できるストーリーを紡ぎ出すことのできるメルケル首相自身の手腕だ。

「メルケル首相は国境開放政策を争点に掲げておらず、そのことが国内の空気にぴったり合っている」とドイツ政府の難民危機対応についてベストセラーを執筆したロビン・アレクサンダー氏は語る。

「多くの人々は、ドイツが人道的行為の模範であるというイメージを好む。その一方で、以前のようにこの国が難民を歓迎し続けることはできないということも分かっている。こうした絡み合った感情にメルケル氏はアピールしている」

2015年末までにドイツに入国した難民申請者は89万人。多くは適切な身元確認もなく、その流入は地元コミュニティを圧倒した。

メルケル首相の行動は、欧州を分断へと導き、反移民感情の台頭を招いた。強硬右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)も、今回の選挙で連邦議会での初議席獲得が確実視されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 2

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子供を「蹴った」年配女性の動画が大炎上 「信じ難いほど傲慢」

  • 3

    あまりの激しさで上半身があらわになる女性も...スーパーで買い物客7人が「大乱闘」を繰り広げる動画が話題に

  • 4

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 5

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 5

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 9

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中