最新記事

欧州

4選狙う独メルケル首相 難民巡る「どん底」からの復活劇

2017年9月20日(水)18時00分


汚れ仕事

メルケル首相の人気復活の背景にある重要な要因の1つに、ドイツに入国する難民申請者の減少がある。2016年には約28万人となり、今年はさらに減少する可能性がある。

これは首相の功績だ。トルコを経由して欧州に流入する移民数を削減するという、トルコとEUの合意を仲介したからだ。

だが、難民減少に本当に効果があったのは、首相が反対していたバルカン諸国の国境閉鎖だった、と指摘する批判派もいる。

これをユーロ圏の金融危機におけるメルケル首相の対応と重ね合わせる見方もある。当時、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、通貨制度を維持するために「何でもやる」と断言した。だからこそメルケル首相は、結果を恐れることなく、ギリシャなどのユーロ圏諸国に対して厳しい態度を貫けたのだ。

難民危機においては、マケドニアやトルコ、ハンガリーなど、難民の移動経路を封鎖した国々が、メルケル首相に代わって「汚れ仕事」を引き受けてくれた。そのおかげで、首相は戦火を逃れた人々を助けた「心優しきリーダー」というイメージを維持できたのだ。

このアプローチによってメルケル首相は、自身の影響力を、従来の支持層である中道派よりも、左に広げることができた。右派の支持者の一部はAfDに流れた可能性があるが、世論調査からすると、従来は左派寄りだった都市部の若年層がその穴を埋めているようだ。

ドイツ経済は十分に好調で、社会に大きな亀裂を生むことなく難民の流入を吸収することができる。難民危機の発生時には、大方の事前想定とは異なり、ナチスという過去に対する反省もあり、ドイツはオープンで寛容な国として名乗りをあげた。

今月発表された調査では、ドイツ国民にとっての懸念事項の首位となったのはテロだった。だがビルト紙が行った別の調査によれば、移民抑制は優先課題とは考えられていない。

「ドイツ国民は驚くほどグローバル、かつリベラルで、世界に対してオープンだ」とインファス応用社会科学研究所のメンノ・スミッド所長は語る。同研究所が先月発表した調査では、ドイツにおいて難民が広く受け入れられていることを示していた。

「われわれはグローバリゼーションの勝者だ。トランプ政権誕生に至ったような経済的要因は、この国にはまったく存在しない」と同所長は述べた。

(翻訳:エァクレーレン)

Noah Barkin

[ベルリン 10日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2017トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中