最新記事

戦争犯罪

世界の戦犯に睨みを利かす米「戦犯局」が廃止へ

2017年7月19日(水)20時45分
コラム・リンチ

ティラーソン米国務長官の優先課題はビジネスと軍事力 Yuri Gripas-REUTERS

<ボスニアやルワンダでの大量虐殺の衝撃から1997年に設立された戦犯専門部局がアメリカ・ファーストの犠牲に>

レックス・ティラーソン米国務長官は、戦争犯罪との戦いから大きく退却しようとしている。複数の元米政府関係者によれば、米国務省で20年にわたり戦争犯罪の責任を追及してきた「戦犯局」が廃止される見通しだ。

この件に詳しい元米政府関係者によれば、国務省は最近グローバル刑事司法局(戦犯局)の戦犯特使、トッド・バックウォルドに、国務省内の法務局への異動を通達した。バックウォルドは、2015年12月から現在のポストに就いていた。

戦犯局の残りの職員は、同省内の民主主義・人権・労働局に配置転換する可能性があると、元米政府関係者はフォーリン・ポリシー誌に語った。

見張りから降りるアメリカ

ティラーソンは、国務省が優先課題に集中して取り組むよう組織の再編を試みている最中だった。ティラーソンが優先課題に据えるのはアメリカ企業のビジネスチャンスやアメリカの軍事力。そうした方針転換により、人権保護や貧困対策などの分野の予算は既に大幅に削減されている。

「これで間違いなく、戦争犯罪の責任追及は腰砕けになる」と、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの国際司法プログラム所長、リチャード・ディッカーは言う。戦犯特使が「国務省に所属していたからこそ、戦犯局に権威があった」という。

バックウォルドに取材を申し込んだが返答はなかった。国務省の報道官は廃止に関して否定も肯定もしなかった。

戦犯局は1997年、ビル・クリントン政権下のマデレーン・オルブライト米国務長官(当時)が設立した。米外交が大量虐殺の責任追及を重視するという姿勢を強く打ち出すため、戦犯特使のポストを新設。1990年代はボスニアやルワンダの大量虐殺の衝撃から、戦争犯罪を犯した個人を裁く機運が盛り上がった。戦犯局の設立はその流れを受けたものだ。

【参考記事】イスラム系大虐殺の大物戦犯に禁錮40年

戦犯追及の支持者たちは長年、戦犯特使の地位を高くすることこそが、アメリカの外交官僚に大量虐殺という難題と取り組ませる唯一の方法だと考えていた。

戦犯局は20年間、ルワンダや旧ユーゴスラビア、カンボジア、中央アフリカまで様々な国際戦犯法廷と協力し、国際刑事裁判所(ICC)への支持拡大を呼び掛ける原動力にもなった。

【参考記事】国際刑事裁判所(ICC)を脱退するアフリカの戦犯たち

「戦争犯罪の責任を軽んじるアメリカの動きは、世界にマイナスの影響を与えることになる」と、米ノースウェスタン大学法学部教授で初代戦犯特使を務めたデービッド・シェファーは言う。「大量虐殺の加害者に対し、アメリカはもう自分たちを見張っていないという合図を送ることになる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は小幅続落、連休前でポジション調整 底堅さ

ビジネス

丸紅、発行済み株式の2.3%・500億円上限に自社

ワールド

韓国当局、企業価値向上プログラムで指針案

ビジネス

ユニクロ、4月国内既存店売上高は前年比18.9%増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中