最新記事

米安全保障

就任5カ月、トランプは馬鹿過ぎて大統領は無理

2017年6月19日(月)20時45分
マックス・ブート (外交問題評議会シニアフェロー、国家安全保障が専門)

そもそもなぜコミーを解任できたのだろう。コミーを解任すれば、トランプが元側近のフリンをやめさせようと圧力をかけたことを証言しかねないことは普通わかるはずだ。それも、解任の理由としてコミーがロシア疑惑の捜査をしていたことが頭にあったと、自分からテレビで喋ってしまった。司法妨害を自白したのと同じだ。賢い人間のすることじゃない。トランプは次は、ロシア疑惑の捜査を指揮するために任命されたロバート・ムラー特別検察官を解任するつもりだ、という噂もある。もし本当に解任すれば、恥の上塗りというものだろう。

トランプが洞察力に欠けるのはむしろ神の御加護だ、という意見もある。もしトランプが過激な上に賢かったら、もっとずっと危険な存在だったに違いない、というのだ。だが、その考えなしの言動がアメリカの安全保障を危険にさらしているとも言える。

トランプはアメリカの大統領だから知りえた機密情報をロシアのラブロフ外相にひけらかした。自分が何をしているかわからなかったのだろう。それによってトランプは、ISIS(自称イスラム国)のテロ情報に最も通じた情報源の正体を敵に知らせてしまったかもしれない。

サウジアラビアなど湾岸諸国がカタールと断交したとき、トランプはツイートでカタールに喧嘩を売った。「これで世界が平和になる」と書いたのだ。天然ガスが豊富なこのリッチな小国に、ISISを空爆する上で死活的に重要なアメリカの空軍基地があるなどとは夢にも思わなかったのだろう。

誰の言うことも聞かない

ブリュッセルのNATO本部を訪ねたときは、加盟国への攻撃は全加盟国への攻撃と見なすというNATO条約第5条(集団防衛条項)を、従前のとおりアメリカが尊重すると確約する代わりに、ヨーロッパの同盟諸国に防衛負担の金を返せ、と言った。トランプは帰国後、第5条を支持すると言ったが、アメリカの信用は既に大きく傷ついた後だった。

トランプ支持者たちはよく、賢い人間が助言をすればトランプの足りない部分を補えると言ってきた。だがトランプはあまりに強情で常軌を逸していて、誰の言うことも聞かないことが次第に明らかになってきた。ニューヨーク・タイムズ紙はこう書いた。「トランプは指図されるのが嫌いだ。大統領選の間には、助言されたことと正反対のことをやってみせることも多かった」

合衆国憲法修正25条は、副大統領と閣僚の過半数が大統領が職務上の権限と義務を遂行できないと判断した場合には、上下両院の3分の2の同意で大統領を更迭できる、と定めている。実現はしそうもない。トランプに立ち向かうには与党・共和党が臆病過ぎるからだ。だが本来は更迭されるべきだろう。就任後5カ月近く経っても、大統領にふさわしい知的能力の片鱗も見せていないのだから。

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は6日続伸、日銀決定会合後の円安を好感

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    フラワームーン、みずがめ座η流星群、数々の惑星...2…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中