最新記事

国交断絶

国交断絶、小国カタールがここまで目の敵にされる真の理由

2017年6月7日(水)08時00分
サイモン・ヘンダーソン

ハッキングが本当だとすれば、イランの仕業だった可能性もある。そもそもイランは、5月20日にサウジアラビアの首都リヤドを訪問したドナルド・トランプ米大統領が、サウジのサルマン国王をはじめとするイスラム教スンニ派諸国を中心とした50カ国超の首脳らと会合を開き、イランを名指しで批判したことに腹を立てていた。

カタールにしてみれば、同じ湾岸協力会議(GCC)の加盟国でありながら、昔から不仲だったサウジアラビアやUAEの陰謀で、まんまと吊し上げられた格好だ。

サウジアラビアから見れば、同じイスラム教ワッハーブ派を国教とする君主制国家でありながら、女性が自由に車を運転し、外国人なら飲酒も許されるカタールは中東地域の問題児で面汚しだ。一方カタールから見れば、サウジアラビアの方こそワッハーブ派の評判を落とす元凶だ。

UAEは、エジプトのムバラク独裁体制を打倒する力となったイスラム原理主義団体ムスリム同胞団を禁止しており、それを支援するカタールを嫌悪している。

2014年にも、カタールがムスリム同胞団を支援したという理由でサウジアラビアなど3カ国が大使を召還し、外交関係に亀裂が入ったことがある。

カタール前首長の暗殺計画

だが今回の断交の発端は、それ以前の1995年まで遡る。その年、カタールの皇太子だったハマド(タミムの父)が、外遊中だった無能の父ハリファを退けて首長の座を奪ったのだ。

カタールで起きた宮殿クーデターを目の当たりにしたサウジアラビアとUAEは、湾岸諸国の王制の安泰を揺るがす危険な前例として、ハマドの失脚を画策した。

当時カタールに駐在していた外交筋によれば、2国は数百人の部族民に対してハマドと彼の2人の兄弟、および外相とエネルギー相を暗殺するよう命じ、ハリファの復権を狙った。

UAEは、攻撃用ヘリコプターや戦闘機を待機させるほどの力の入れようだった。だが作戦の数時間前に部族の1人が寝返ったため、暗殺は実行されなかった。

こうした因縁を思えば、タミムが両国に対して疑心暗鬼になるのも無理はない。

カタールは人口約200万人(うちカタール国籍はざっと10分の1)という小国なのに、なぜそれほど重要なのか。カタール在住の外国人にとっても、なかなか実態は掴みにくい。夜のドーハでライトアップされた高層ビル群は壮観だが、ビルの中はしばしばガラガラ。だが1人当たり国民所得は世界一高い。天然ガスの埋蔵量は世界3位で、輸出先はイギリスから日本まで幅広い。アメリカの中東最大の空軍基地であるアルウデイド空軍基地もカタールにあり、アフガニスタン戦争やイラク戦争でもここから戦闘機が出撃した。今はISIS(自称イスラム国)掃討作戦の出撃拠点になっている。

【参考記事】カタールW杯が出稼ぎ労働者を殺す

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、好業績に期待 利回り上昇は

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ワールド

英独首脳、自走砲の共同開発で合意 ウクライナ支援に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中