最新記事

疑惑 

マルタ疑惑 地中海に浮かぶ小国がヨーロッパの脱税天国に?

2017年6月2日(金)17時30分
モーゲンスタン陽子

独シュピーゲルによると、2012年、ベットソンがいくつものサーバーを数年にわたってシーリングなしで使用していたことが発覚し、アタナソフが上司に報告したが、ベットソンは引き続き操業が許可された。翌年、アタナソフがベットソンとその他のケースをマルタ政府の内部監査・操作部門に報告し、さらにその翌年、ジョゼフ・ムスカット首相に宛てて手紙を書く。結局は何も起こらず、アタナソフは2015年にMGAを解雇された。ちなみに、アタナソフの上司はその後ベットソンの法律事務所に職を得ている。

ベットソンはシュピーゲルに、「シーリングはセキュリティには何の効果もない」と答え、同社は脱税や資金洗浄にはまったく関わりがないとしている。またMGAチェアマンのジョゼフ・カスチエリもロイターに、シーリングと脱税や資金洗浄に関連性はなく、監査には別の手法を用いていると述べている。

だがアタナソフは、手ぬるい監視は「疑わしい資金操業や資金洗浄、その他の犯罪行為を許す条件を整える」(ロイター)と考えている。また、マルタでは監査のないまま数億件もの取引がなされ、「適切なコネを持っていれば、企業は何年も審査なしで操業を許されている。[MGAの表向きの]ルールとは裏腹に、ITシステムは監査されない。金が消える可能性はある」とし、「ベットソンのライセンスは停止されるべきだ」と言う(シュピーゲル)。

欧州全体の緊急課題

事実、2015年にはイタリアンマフィアがオンライン賭博を資金洗浄に利用していたことが発覚したため、イタリアの数社が閉鎖されている。欧州議会のスヴェン・ジーゴルド(ドイツ、緑の党)は「マルタの犯罪資金の簡単な資金洗浄を早急に止める必要性がある」とシュピーゲルに語っている。

今回話題となっているのはオンライン賭博業界だが、それ以外にもマルタでの各企業の活動には不審な点が多いとされる。シュピーゲルは別の記事で「なぜドイツの最も有名な大企業や、最も成功している中企業が(マルタに)かかわっているのか」と、疑問を投げかける。2016年創設の国境を越えた報道調査ネットワークで、シュピーゲルやニューズウィーク・セルビアなども参加するヨーロピアン・インベスティゲイティブ・コラボレーションズ(EIC)の「マルタ・リスト」には、ドイツやヨーロッパの有名企業や著名人数千が名を連ねている。

マルタ島発のスキャンダルはまだ始まったばかりかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中