最新記事

ミャンマー

スーチーが「民族浄化」を批判できない理由

2017年5月18日(木)10時00分
エドワード・パーカー

軍をかばうかのようなスーチーの発言に国際社会は失望している Athit Perawongmetha-REUTERS

<ロヒンギャに対する軍部の残虐行為を黙認している、と激しい非難をスーチーは浴びているが>

ミャンマーの国家顧問で実質的な最高指導者であるアウンサンスーチーはここ3カ月、厳しい試練にさらされている。西部ラカイン州に住むイスラム教徒の少数民族ロヒンギャに対し、国軍が虐殺やレイプなど組織的な迫害を行った問題で、ミャンマー政府は国際社会から非難の集中砲火を浴びた。

とりわけスーチーに対する風当たりは強い。「スーチーには失望した」「ノーベル平和賞受賞者で、世界の人権運動のシンボルなのに、なぜこの問題では言葉を濁しているのか」といった批判が渦巻いている。

ミャンマーの人々に「国母」と慕われるスーチーだが、期待が大きければ失望もまた大きい。経済、教育、報道の自由など、あらゆる分野で改革の遅れが目立つことでも、彼女は非難の矢面に立たされている。

だが忘れてはならないのはスーチーを取り巻く状況だ。改革派と抵抗勢力が激しくせめぎ合い、さまざまな既得権益集団が複雑な綱引きを繰り広げている。

まず現行憲法の縛りがある。スーチー率いる与党・国民民主連盟(NLD)は憲法改正を目指しているが、軍の権限をめぐり激しい攻防が予想される。

現行憲法では連邦議会の議席の25%を軍人が占め、さらに軍政下の政権与党だった連邦団結発展党(USDP)の議員がそれに加わる。国軍の最高司令官は文民ではなく軍人が務め、国防相、内務相、国境相も国軍最高司令官が指名する。

大きな誤解は、スーチーにはロヒンギャの虐殺を止める力があったのに止めなかったという認識だ。現政権もスーチーも、軍に対しては何の権限も持っていない。軍による人権侵害でスーチーを責めるのは、まったくの筋違いだ。

【参考記事】スー・チーにも見捨てられた?ミャンマーのロヒンギャ族

文民政権がつぶされる

軍の決定を阻止できないまでも、政権与党の指導者として、軍の行為を強く非難することはできたはずだ――そう言ってスーチーを批判する人々もいる。

確かに、最近のインタビューで彼女は軍のやり方には同意できないと言いつつも、ロヒンギャに対する迫害は「民族浄化」ではないと主張している。

だが、この点でも彼女が置かれた状況を考慮する必要がある。民族浄化と認めたらどうなるか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中関係の「マイナス要因」なお蓄積と中国外相、米国

ビジネス

デンソーの今期営業益予想87%増、政策保有株は全株

ワールド

トランプ氏、大学生のガザ攻撃反対は「とてつもないヘ

ビジネス

米メルク、通期業績予想を上方修正 抗がん剤キイト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中