最新記事

欧州軍事

ドイツが独自の「EU軍」を作り始めた チェコやルーマニアなどの小国と

2017年5月25日(木)20時30分
エリザベス・ブラウ

まだドイツには、同盟国が期待するほど軍事力を拡大する政治的な意思がないのかもしれない。それでもドイツは2013年から、ドイツ連邦軍と小国の部隊統合に取り組んできた。ドイツの狙いは、連邦軍の軍備などを供与する見返りに、ドイツも相手国の部隊を利用できるようにすること。小国である相手国にとっても、ドイツの軍事力拡大という政治的に微妙な問題を回避しつつ、ドイツが欧州の安全保障により深く関与する道筋をつけられるメリットがある。

「このイニシアチブは、欧州独自の軍事力を確立する試金石になる」とマサラは指摘する。「イギリスとフランスには、欧州の安全保障を主導する余力がない」からだ。イギリスはEU離脱で加盟国との間に軋轢を生んだし、フランスも軍事大国とはいえ、NATO域内の多国間連携にはいつも及び腰だ。「だから残るはドイツだ」とマサラは言う。

運用面でも、兵士が常時任務にあたる部隊の方が、臨時的に寄せ集めた多国籍部隊より使い勝手がいい。さらに相手国にとって決定的に重要なのは、部隊統合で自国の軍事力を増強できること。しかも万一ドイツがそうした部隊の実戦配備を決めても、相手国の合意がなければ実行できないことになっている。

ドイツは1945年以降、独自の国外派兵に異常なほど慎重で、連邦軍のNATO域外派兵は長年タブーだった。ドイツの相手国は、このイニシアチブを突破口にしてドイツが欧州の安全保障に一層の責任を果たすよう望んでいる。今のところ本格的なEU軍にはほど遠いが、今後は規模が拡大しそうだ。

潰れかけた戦車部隊を救う

ドイツと統合部隊を結成した諸小国は、その効果や恩恵をしきりに宣伝している。ルーマニアやチェコは、自国の軍隊をドイツ軍と同水準まで底上げすることができる。オランダは、潰れかけていた戦車部隊の立て直しにつながった。(オランダ政府は財政難のため2011年に戦車をすべて売却した。だが現在、ドイツの第1装甲師団と統合してドイツ西部オルデンブルグに駐留するオランダ軍の第43機械化旅団は、今後オランダ軍部隊として派兵される際にはドイツ軍の戦車を借りられる)。

オランダの第43機械化旅団の指揮官アンソニー・リューベリング大佐によれば、部隊統合でほとんど問題は生じなかった。「ドイツ連邦軍は総勢18万人に上る兵力を擁するが、だからといって我々を弱者のように扱わない」という。彼は今後益々多くの国がドイツ軍との部隊統合に舵を切ると見込んでいる。

ドイツ連邦軍にも意中の候補国がいくつかあると、ドイツの候補国リストを閲覧したことがあるノルウェー防衛研究所のロビン・アラーズ准教授は指摘する。マサラによれば、ドイツが次に部隊統合する最有力候補に挙がりそうなのは、すでにドイツ製の武器を大量に購入している北欧諸国だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直

ワールド

ロシア産肥料を米企業が積極購入、戦費調達に貢献と米

ビジネス

ECB、利下げごとにデータ蓄積必要 不確実性踏まえ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中