最新記事

映画

歴史スペクタクル『グレートウォール』は、3分の2だけグレート

2017年4月26日(水)13時45分
サム・アダムズ

アイルランドから来た弓の名手ウィリアムが中国人を救う ©UNIVERSAL PICTURES

<中国の物語に白人のマット・デイモンを起用して議論に。映像は見事だがストーリーは矛盾だらけの問題作>

張芸謀(チャン・イーモウ)監督の『グレートウォール』はだいたい3分の2がグレートで、3分の1がひどい仕上がり。わざわざ「張芸謀の」と書いたのは、彼が監督だからというより、この作品に関する話題は全て主演のマット・デイモンに集中してきたからだ。

中国の万里の長城をめぐるファンタジーにデイモンが主演すると発表された瞬間から、白人が無理やりアジアの物語に登場すること、しかも白人の主人公が中国人に怪物を退ける方法を教えるという筋立てであることが批判の的になった。

まず、3分の1の駄作部分について。私はデイモンの出演作を全て熱心に見たわけではないが、この作品の彼の演技は最悪の部類に入る。映画の前半ではあごひげとかつらに埋もれて登場するが、ひげを刈り込んだ後も人物像がはっきりしない。

どうやらデイモン演じるウィリアムは、火薬を探して中世の中国に来たアイルランド人らしい。彼と相棒トバール(ペドロ・パスカル)は偶然、万里の長城に行き当たり、その真の目的を知る。それはトウテツという怪物から中国を守ることだ。

中国の物語に白人(ウィレム・デフォーも重要な役)を登場させたのは、受け入れ難い妥協だ――公開前にはそんな批判が寄せられた。何に妥協したのかと言えば、巨額の製作費をかけた国際的作品はハリウッドスター(たいてい白人男性)なしには成功しないという常識。日本のサムライ映画でも、主役はトム・クルーズの方がいい。

『グレートウォール』が公開初週の週末の興行収入で『レゴ バットマン ザ・ムービー』に負けると予想されていたことを考えると、その常識が本当かどうかはいまひとつ明らかではない。実際、中国ではかなり大々的に封切られたが、すぐに客足が遠のいた。

それにヒット狙いで白人スターを主役にするという主張は、中国を救う役に西洋人を配置することの政治的な意味を無視している。

政府に支配された中国の映画業界で長いこと映画を作ってきた張は、作品中にメッセージを忍ばせたり、複数の権力者を同時に称賛するのがうまい。確かに観客は、ウィリアムの視点から万里の長城の物語に入っていく。しかしジン・ティエン演じるリン司令官の指揮下にある中国人の防衛軍が登場すると、ウィリアムは目立たなくなる。

【参考記事】ハリウッド版『ゴースト・イン・ザ・シェル』に描かれなかったサイボーグの未来

なぜデイモンがここに?

ウィリアムとトバールは、任務によって色分けされた軍服の防衛軍が怪物トウテツと対決し、数々の戦略を駆使して戦う様子を粛然と見つめる。

ウィリアムの出番は他の登場人物より多いものの、人物像に関する説明はかなり不足している。6人の脚本家が関わっているが、ウィリアムがこの物語の中心であるべき説得力のある理由がない。デイモンも、自分がそこにいる理由が分からないかのように演技している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、8日ミサイル実験を監督 核態勢を

ワールド

トランプ大統領、下院議長に富裕層への課税強化求める

ワールド

米、数十件の貿易協定締結目指す 中国とも緊張緩和=

ビジネス

米ビッグスリー、米英貿易協定を批判 「国内自動車産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 8
    日本の「治安神話」崩壊...犯罪増加と「生き甲斐」ブ…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中