最新記事

安全保障

マティスはNATOへの最後通牒から引き返せるのか

2017年2月17日(金)18時28分
ジム・タウンゼンド

NATOの集団防衛の弱体化はマティスも望まないはずだが Francois Lenoir-REUTERS

<年末までにGDPの2%まで防衛負担を引き上げよ、さもなくばアメリカはNATOへの関与を弱めることになる──対ロシア防衛をNATOに頼ってきたヨーロッパに生きるか死ぬかの選択を迫ったトランプ政権は、この落とし前をどうつけるのか>

ジェームズ・マティスは、米国防長官として初めて参加したNATO(北大西洋条約機構)国防相理事会できっちり仕事をしてみせた。1日目には相手を安心させるような公式声明を出しながら、非公開の場でアメリカのNATOに対する「関与を弱める」可能性について警告するなど、揺さぶることも忘れなかった。年末までの防衛費支出の負担拡大を加盟国に求め、これに応じない場合はアメリカはNATOへの「関与を弱める」と警告した。

公式声明はなかなかの出来だった──実際、冷静にして実務的、また率直で、NATOの意義を理解するために欠かせない歴史的出来事にも言及している。マティスが、NATOに対する知識と親近感を持っているという安心感を持たせるには十分だろう。

ではこの「関与を弱める」という発言に隠された意図は何か。前後の文脈を通せば微妙だが、かなり明確な最後通牒だった。前任者のロバート・ゲーツは2013年にブリュッセルで行った有名なスピーチで、同盟国のさらなる貢献がなければ、NATOの未来は暗く憂鬱なものになると言った。

マティスはそこから一歩踏み込んでいる。要するにマティスが告げたのは、ゲーツが警鐘を鳴らした政治的に容認できない事態が、ここにきてドナルド・トランプという形をとってワシントンに降臨したということだ。

【参考記事】トランプとロシアの接近に危機感、西側同盟国がアメリカをスパイし始めた

ルビコン川を渡った

トランプ米大統領は、加盟国の防衛費をGDP(国内総生産)比2%にするよう求めている。達成しているのは加盟28カ国中でアメリカを含む5カ国だけだ。「応分の負担をせよ」と、マティスは言ったわけだ。もし年末までに達成できなかったらどうなるのか?

【参考記事】ウクライナ危機で問われるNATOの意味

こうした越えてはならない一線(少なくとも越えないほうがいい一線)を設定すると、後に引くのは難しくなる。一部の加盟国ではGDP比2%の軍事費を達成できる見込みはゼロで、大きな伸びを期待できる国などあったとしてもごくわずかだ。その場合はどうなるか。アメリカは関与を弱めるのか。それはいったい何を意味するのか。1年以内に直面するその時から、うまく逃れることは許されないだろう。逃げれば、最低でも張り子の虎と評されることになる。

【参考記事】「ロシアが禁止ミサイル配備」にも無抵抗、トランプ政権の体たらく

「関与」を弱めるのではなく「参加」を弱めるのだとマティスが言明していれば、まだ柔軟に対応できる余地はあった。NATOへの関与を弱めることは、加盟国に対する攻撃は全加盟国への攻撃とみなすというNATO条約第5条の集団防衛の弱体化につながる。トランプはともかく、マティスの意図するところではあるまい。アメリカの「参加」を弱めるのなら、アメリカの拠出分を減らすなど、第5条に影響しない別の道が開けたはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ家暗号資産企業へのUAE出資問題、上院民主

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、前週末安の反動が先行

ビジネス

トレンド追随型ファンド、1月に金・銀で利益 急落に

ビジネス

米ウーバー、新たに欧州7カ国でデリバリー事業展開へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 2
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 3
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 4
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 7
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 8
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 10
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中