最新記事

BOOKS

「音楽不況」の今、アーティストがむしろ生き残れる理由

2017年1月30日(月)19時49分
印南敦史(作家、書評家)

<「最近のヒット曲ってなに?」を出発点に音楽業界の状況やメディアのあり方、J-POPの変遷を検証した『ヒットの崩壊』は、多くの共感を得られた1冊>

ヒットの崩壊』(柴 那典著、講談社現代新書)は、「ヒット」という角度から、音楽業界の状況やメディアのあり方などを多角的に検証した新書。著者は、ロッキング・オン社を経て独立した音楽ジャーナリストである。

 印象的なのは、音楽不況だといわれる現状を、「最近のヒット曲ってなに?」という素朴な疑問を出発点として捉えている点だ。多くの人が気にかけているであろうその問題を、緻密な取材と観察眼を通じて広い視野で掘り下げているのである。


 ここ十数年の音楽業界が直面してきた「ヒットの崩壊」は、単なる不況などではなく、構造的な問題だった。それをもたらしたのは、人々の価値観の抜本的な変化だった。「モノ」から「体験」へと、消費の軸足が移り変わっていったこと、ソーシャルメディアが普及し、流行が局所的に生じるようになったこと。そういう時代の潮流の大きな変化によって、マスメディアへの大量露出を仕掛けてブームを作り出すかつての「ヒットの方程式」が成立しなくなってきたのである。(4ページ「はじめに」より)

 このことについては、著者が取材した小室哲哉の言葉を目にすれば強い共感を得ることができるだろう。90年代J-POPの主役のひとりである彼は当時の状況を、「まずはいい曲を作って、CDをリリースして、それをプロモーションして売るというのが基本だった」と説明している。その売上枚数がオリコンチャートで1位になれば、「流行っている」ということになり、雑誌もテレビもラジオもそれを参考にするというわけだ。

 しかしCDを買う人が減り、「聴き放題」のストリーミングサービスが広まり、SNSが情報発信の主要な手段となっている状況下においては、その構造がまったく成り立たなくなっているということである。だが、それだけではない。特筆すべきは、その一方で、長く活動できるアーティストが増えているということだ(アイドルを含む)。


 音楽業界を取り巻く環境は厳しい――誰もがそう口を揃える。では、その主役であるアーティストたちも「生き残れない」時代になっているのだろうか?
 実はそうではない。むしろ逆だ。歌謡曲全盛の80年代や、「J-POP」という言葉が普及した90年代に比べても、音楽不況が叫ばれるようになった00年代以降の方が、アーティストは着実にキャリアを重ね、息の長い活動を続けることができる時代になっている。(14ページより)

 その根拠としてまず注目したいのは、現代が「音源よりもライブで稼ぐ時代」だという事実だ。個人的にも、この考え方には同感である。音楽に限らず、ライフスタイルに関わる多くのことについて、「所有する」ことよりも「体験する」あるいは「感じる」ことのほうが重要だということを、皮膚感覚として日常的に意識しているからである。

 それはともかく音楽に関していえば、その裏づけとなるのは、フジロック、サマーソニック、ロック・イン・ジャパンなどの「フェス」の浸透だろう。そして、ここでのポイントは、嵐やAKB48、EXILEや三代目J Soul Brothersなどが出演している大型音楽番組とフェスには共通点があるという著者の見解だ。

 もちろん両者では出演陣や演出、構成こそ異なるものの、「生の体験の共有」を軸にした参加型の盛り上がりが生まれるという点が同じだという考えである。

【参考記事】熱烈歓迎!音楽ツーリスト様

ニュース速報

ワールド

米中首脳会談、4月6─7日にフロリダ州の別荘で=関

ワールド

仏大統領選のマクロン候補、下院選躍進にも自信 過半

ビジネス

トランプ政権の政策を依然様子見=パウエルFRB理事

ワールド

米温暖化対策撤廃へ大統領令、トランプ氏が署名

MAGAZINE

特集:フランス大統領選 ルペンの危険度

2017-4・ 4号(3/28発売)

4月末のフランス大統領選で大躍進が見込まれる極右・国民戦線の女性党首ルペンが支持を広げる理由

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    肺にまさかの「造血」機能、米研究者が発見

  • 2

    トランプは張り子の虎、オバマケア廃止撤回までの最悪の一週間

  • 3

    東芝は悪くない

  • 4

    韓国の次期「左派大統領」が進む道

  • 5

    「日本の汚染食品」告発は誤報、中国官制メディアは…

  • 6

    レギンスパンツで搭乗は不適切? ユナイテッド航空…

  • 7

    米株急落、トランプ手腕を疑問視し始めたウォール街

  • 8

    トランプの娘婿でイバンカの夫、クシュナーの素性

  • 9

    韓国検察、朴前大統領の逮捕状を請求 有罪なら懲役4…

  • 10

    森友学園問題、中国でねじれ報道――「極右教育」籠池…

  • 1

    韓国セウォル号、沈没から1073日目で海上へ 引き揚げは最終段階

  • 2

    韓国人が「嫌いな国」、中国が日本を抜いて第2位に浮上

  • 3

    金正男殺害の容疑者は北朝鮮の秘密警察に逮捕されていた

  • 4

    サウジ国王が訪問を中止したモルディブが今注目され…

  • 5

    亡命ロシア下院議員ボロネンコフ、ウクライナで射殺

  • 6

    トランプは張り子の虎、オバマケア廃止撤回までの最…

  • 7

    北朝鮮、ミサイル発射するも失敗 打ち上げ直後に空…

  • 8

    米ビール業界を襲うマリファナ「快進撃」

  • 9

    ロンドン襲撃テロ事件で死者4人・負傷40人 英首相「…

  • 10

    「日本の汚染食品」告発は誤報、中国官制メディアは…

  • 1

    ウーバーはなぜシリコンバレー最悪の倒産になりかねないか

  • 2

    買い物を「わり算」で考えると貧乏になります

  • 3

    英女王「死去」の符牒は「ロンドン橋が落ちた」

  • 4

    韓国セウォル号、沈没から1073日目で海上へ 引き揚…

  • 5

    金正男の長男ハンソル名乗る動画 身柄保全にオラン…

  • 6

    ISISが中国にテロ予告

  • 7

    韓国人が「嫌いな国」、中国が日本を抜いて第2位に浮上

  • 8

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 9

    ウィリアム王子が公務をさぼって美女と大はしゃぎ、…

  • 10

    スカーレット・ヨハンソンが明かしたイバンカ・トラ…

Hondaアコードの魅力

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

原子力緊急事態への対応力を向上
日本再発見 「外国人から見たニッポンの不思議」
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 別冊

0歳からの教育 知育諞

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2017年3月
  • 2017年2月
  • 2017年1月
  • 2016年12月
  • 2016年11月
  • 2016年10月