最新記事

中東和平

イスラエルの入植に非難決議──オバマが最後に鉄槌を下した理由

2016年12月26日(月)18時20分
コラム・リンチ、ロビー・グレイマー、エミリー・タムキン

「決議の採択は、ユダヤ人がイスラエルの地に住居を建てるのを非難する行為だ。それも歴史的な首都であり、ユダヤ人の心や魂そのものであるエルサレムの地での建設を」と彼は言った。「フランス人がパリで、ロシア人がモスクワで、アメリカ人がワシントンで自分たちの家を建てることも、国連は禁止するのか」。ダノンは安保理に対して、今後もイスラエルは民主主義のユダヤ国家であり続けると誓った。

 パレスチナ国連常駐オブザーバーのリヤド・マンスールは、今回の決議がパレスチナとイスラエル、およびアラブ人とイスラエル人の間の和平に向けた数ある段階において、初期の一歩になるよう期待すると述べた。安保理に対しては、「法律に則り、正しい歴史の側に立つ」よう促した。

 米政府に拒否権の発動を迫ったトランプは、来年1月の大統領就任後に従来の外交政策を「親イスラエル」に一転させるとしている。現在はテルアビブにある在イスラエル米国大使館を、イスラエルとパレスチナの両方が首都と主張するエルサレムに移すと明言し、次期イスラエル大使には、入植推進派で2国家共存に否定的なデービッド・フリードマンを指名した。

前回は拒否権を発動したのに

 決議の前日に発表した声明で、トランプはこう述べた。「長年アメリカが訴えてきたように、イスラエル人とパレスチナ人の和平合意は、当事者間による直接対話を通じてしか実らない。国連が条件を押し付けるものではない」

 オバマ政権は2011年には、イスラエルの入植非難決議案に拒否権を発動し、安保理で廃案に追い込んだ。当時の米国連大使だったスーザン・ライスは拒否権の行使について、アメリカがイスラエルの入植活動にお墨付きを与えたと解釈されるべきでなく、あくまで入植を「違法」とみなす米政府の立場を示した。一方で、安保理の15カ国中14カ国が賛成していた決議案は「イスラエルとパレスチナ双方の立場を硬化させ」、パレスチナ国家樹立の可能性を遠ざけるものだと主張した。

 あれから5年、任期切れが迫ったオバマ政権のイスラエルに対する計算は明らかに変わった。或いはイスラエルとの関係悪化が引き金となり、オバマ政権は最後の最後に、従来ならあり得なかった外交方針への舵取りを強いられたのかもしれないが。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中